『認知心理学研究』 第21巻 第1号(2023年8月)
目次
- 展望/多感覚統合研究から考える質感認知(小野未琴・森 周司)
- 特別寄稿/百寿者の認知機能に関する研究(権藤恭之)
- 講演論文/認知心理学修了者のキャリアパスから考える認知心理学と社会とのつながり(西崎友規子・羽渕由子・澤井大樹・新井田 統・井原なみは・大門貴之・長江新平・若本夏実・村山紗英・岩根榛花・原田悦子)
- 優秀発表賞/第20回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ(熊田孝恒)
- 優秀論文賞
2021年度日本認知心理学会優秀論文賞
2022年度日本認知心理学会優秀論文賞
2023年度日本認知心理学会優秀論文賞 - 会報
日本認知心理学会第21回総会報告
2022年度決算
2023年度予算・新規事業計画案
第22回大会のお知らせ
2022年度研究部会からの活動・会計報告
受領図書
お知らせ
日本認知心理学会 会則
日本認知心理学会選挙細則
「認知心理学研究」諸規程
Abstract
展望/多感覚統合研究から考える質感認知
小野未琴(九州大学大学院システム情報科学府)
森 周司(九州大学大学院システム情報科学研究院)
質感とは,主に視覚・聴覚・触覚の情報から得られる物体の素材(例:鉄,木)や性質(例:粗さ,光沢)の包括的概念である.質感は,我々の活動において重要な役割を持つ.近年では質感認知は,複数の感覚情報に基づいた統計的推論によって行われるとされ,その統計的推論を行う神経基盤を調べる研究も存在する.本論文では,多感覚統合の研究を通して質感認知のメカニズムについて議論し,質感の情報処理の解明に新たな視点を与える.
キーワード:質感,素材性質,素材カテゴリー,多感覚統合
特別寄稿/百寿者の認知機能に関する研究
権藤恭之(大阪大学大学院人間科学研究科)
近年,100歳を超える百寿者が世界的に増加している.百寿者の認知機能を調べることは,近い将来の介護費用の推定に貢献する.また,加齢現象の解明にも寄与することが期待され,科学的貢献という意味でも極めて重要である.本研究では,百寿者の認知機能の特徴を明らかにし,百寿者の認知機能を評価するための質問項目を作成した.開発した質問項目は,百寿者における認知症有病率の年齢差を推定するために適用可能であった.暫定的な結果としては,認知症は女性にとっては不可避であるが,男性にとっては回避可能であることが示唆された.
キーワード:百寿者,長寿,認知機能,認知症
講演論文/認知心理学修了者のキャリアパスから考える認知心理学と社会とのつながり
企画者:認知心理学会社会連携委員会
西崎友規子(京都工芸繊維大学)
羽渕由子(周南公立大学)
澤井大樹(イデアラボ)
新井田 統(KDDI総合研究所)
話題提供者
井原なみは(イデアラボ)
大門貴之(NTTテクノクロス株式会社)
長江新平(日産自動車株式会社)
新井田 統(KDDI総合研究所)
指定討論(学生指定討論)
若本夏実(立命館大学総合心理学部)
村山紗英(北海道大学大学院文学研究院)
岩根榛花(筑波大学大学院人間総合科学学術院)
指定討論(総括)
原田悦子(筑波大学)
本シンポジウムでは,認知心理学系学部・大学院を修了し,企業等で活躍中の修了生に,自身のキャリアパスを示してもらうとともに,大学の外から認知心理学に対する期待や要請を述べてもらった.そして,認知心理学を修めた人材が社会でどのように活躍していけるのか,また,社会とつながっていくにはどのように道を辿れば/拓けばよいのかについて議論をおこなった.登壇者からは,サイエンスコミュニケーターとして企業と心理学をつなぐ役割,製品の開発や企画における実験や調査の場面でスキルを活かした活躍の姿が紹介された.指定討論の学部・大学院在学生からは,学部卒で専門性やイノベーションを求められることへの戸惑い,社会における「認知心理学」のプレゼンスの低さに由来する職業選択時の苦労について意見が出された.認知心理学が社会とより密接につながっていくために必要な課題を整理し,社会連携委員会としても引き続き,課題解決に向けて取り組んでいくことを確認した.
キーワード:心理学専攻生,キャリアパス,社会連携