2024年度日本認知心理学会優秀論文賞
日本認知心理学会では,2021年度より,認知心理学会優秀論文賞を設けています.2022年度からは,優秀論文賞のもとに特別賞,奨励賞の2種類が設けられています.
機関誌「認知心理学研究」の前年度に完結した巻に掲載された原著論文の中から,優秀論文賞選考委員会が,規程に基づき,認知心理学の発展において特に大きな貢献を果たした論文を選考し,優秀論文特別賞,優秀論文奨励賞として顕彰いたします.
選考経過
2024年度の優秀論文賞選考委員会は,規程により,常務理事である清水 寛之氏(委員長),理事である西崎 友規子氏(副委員長),理事長である梅田 聡氏,編集担当常務理事である北神 慎司氏(機関誌等編集委員会委員長),および理事である浅野 倫子,有賀 敦紀,今井 久登,上田 祥行,米田 英嗣,富山 尚子,外山 紀子,中尾 敬,福井 隆雄,吉崎 一人の各氏,合わせて14名で構成された.ただし、利益相反のある委員(有賀敦紀、上田祥行)については審査から外れた.
対象となった論文は,「認知心理学研究」第21巻1号,2号に掲載された5編であった.審査は日本認知心理学会優秀論文賞規程および優秀論文賞選考手続きに則って行い,第一次審査,第二次審査の結果を総合的に判断し,最終的に,以下の2編を優秀論文賞とした.認知心理学会第23回大会において授賞式の予定である.
2024年度認知心理学会優秀論文特別賞
論文タイトル,著者名
「社会的ワーキングメモリ研究:これまでの10年間とこれからの展望」 石黒 翔・齊藤 智
授賞理由
社会的活動において必要とされるワーキングメモリは社会的ワーキングメモリと呼ばれ,この約10年,世界的に多くの研究が展開されている.本論文は,社会的ワーキングメモリの研究動向を俯瞰し,代表的な先行研究の紹介や,認知的ワーキングメモリなど関連概念との関係についての知見の整理を行ったうえで,「これからの社会的ワーキングメモリ研究」のための論点を明確にし,著者らによる作業仮説を提示したものである.これらのいずれの要素についても質が高く,優秀論文(特別賞)に値するものと判断された.論文内で著者らも述べている通り,現状では,社会的ワーキングメモリという構成概念は十分に精緻化されているとは言い難いが,今後その性質や重要性を明らかにするうえでも貴重な論文である.ワーキングメモリが認知心理学だけでなく幅広い領域で注目されている現状において,本論文は多くの人の理解を助け,さらなる研究を触発することと期待される.
2024年度認知心理学会優秀論文奨励賞
論文タイトル,著者名
「頷きと首振りが選択判断に及ぼす誘導効果」 大杉尚之・河原純一郎
授賞理由
頷きや首振りといった行為は,コミュニケーション場面でしばしば観察される.それらの行為が与える影響は,ノンバーバルコミュニケーション研究の文脈において検討されてきているものの,認知的な課題に及ぼす影響についてはほとんど研究されてきていない.そのような背景のもと,頷きや首振りが選択判断に及ぼす誘導効果について実験を通じて検討したのが本論文である.本論文には,ノンバーバルコミュニケーションの観点による検討が中心であった問題に対し,認知的な課題を用いることでコミュニケーション研究の文脈によらない検討をおこなったという新規性や,若い女性・中年の男性・ロボットの3者のいずれかに頷きや首振りをさせた実験課題の設定上のオリジナリティといった特筆すべき点がある.加えて,本論文における知見は,たとえば,オンライン上での商談場面やオンライン会議におけるコミュニケーションへの応用可能性といった将来性が見出されるものであることから,奨励賞にふさわしい論文であると評価された.