『認知心理学研究』第20巻 第1号

『認知心理学研究』 第20巻 第1号(2022年8月)

目次

  • 原著/選択的計数課題における顔表情の影響:悲しみ表情に着目した検討(小林 慧・河西哲子)

  • 原著/視覚呈示される単語の認知過程における発音容易性の影響(髙瀨愛理・大山潤爾)

  • 展望/検索の意図的な制止による能動的忘却:Think/No-Thinkパラダイムの20年(西山 慧・齊藤 智)

  • 講演論文/両エピソード科学:記憶研究の新たな視点(伊藤友一・松本 昇・小林正法・西山 慧・三好清文・村山 航・川口 潤)

  • 優秀発表賞/第19回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ(熊田孝恒)

  • 独創賞/2022年度日本認知心理学会独創賞の選考結果のお知らせ(行場次朗)

  • 会報
    日本認知心理学会第20回総会報告
    2021年度決算

    2022年度予算・新規事業計画案
    第20回大会のお知らせ
    2021年度研究部会からの活動・会計報告
    受領図書
    お知らせ
    日本認知心理学会 会則
    日本認知心理学会選挙細則
    「認知心理学研究」諸規程

Abstract

原著/選択的計数課題における顔表情の影響:悲しみ表情に着目した検討

小林 慧(北海道大学教育学部)
河西哲子(北海道大学大学院教育学研究院)

複数の他者とコミュニケーションを行うとき,特定の表情を示す人の概数を把握することは,状況を理解するうえで重要である.顔表情の数の推定に関する先行研究では,中立顔に比べて怒り顔の計数の正答率は低く,数が少なく見積もられた(Baker, Rodzon, & Jordan, 2013).しかし同じ顔画像を複数提示した場合の単純計数課題であり,複数の同一人物が同じ表情を示すため通常は起こらない状況であった.またネガティブな表情として怒りのみが調べられているが,表情によって異なる役割があるだろう.本研究は,損失や喪失を伝達し,他者の共感や向社会的行動を引き出す役割がある悲しみ表情に着目し,それが計数に及ぼす影響を検討した.刺激として人物の異なる四つの顔画像を500 ms提示し,中立顔と笑顔,または中立顔と悲しみ顔の組み合わせから,表情顔を計数する選択的計数課題を行った.結果,ターゲット数が2個以上のとき,笑顔より悲しみ顔に対する正答率は低く,数の過小評価が生じた.このことは,刺激が比較的短時間提示されるとき,悲しみ顔が計数を妨害することを示唆する.
キーワード:表情,悲しみ,計数,注意

原著/視覚呈示される単語の認知過程における発音容易性の影響

髙瀨愛理・大山潤爾(筑波大学,産業技術総合研究所)

視覚呈示される単語の発音容易性は,その単語の記憶保持成績に影響することが報告されているが,発音容易性が単語の記銘や符号化といった認知過程から影響を及ぼすのか,その後の記憶保持過程にのみ影響するかは明らかになっていない.実験1では,先行研究の発音容易性で分類した発音容易語と発音困難語と,効果の比較のための非単語を用いて,単語呈示時間の認知閾を比較し,発音容易性の影響を検討した.実験2では,単語の読み上げ課題を行い,発音時間による発音容易性の分類を用いて,実験1と同様の分析を行った.その結果,実験1と2の両方で,発音容易語と発音困難語の間で単語呈示時間の認知閾に有意な差は見られなかった.本研究結果から,視覚呈示された単語の認知過程においては音韻的符号化を用いずに視覚的に単語が認知されることで発音容易性の影響を受けにくく,それ以降の記憶保持過程では音韻ループが利用されることで発音容易性の影響を受ける可能性が示唆された.本研究では,動的な情報における表示時間設計への応用可能性についても検討した.
キーワード:認知,記憶,発音容易性,視覚呈示単語,時短デザイン

展望/検索の意図的な制止による能動的忘却:Think/No-Thinkパラダイムの20年

西山 慧・齊藤 智(京都大学)

検索の意図的な制止は,記憶を意図的に思い出さないようにする内的過程を指し,Think/No-Think(TNT)パラダイムによって検討されてきた.本論文ではTNTパラダイムの実験手続きの説明に始まり,TNT研究によって明らかにされた検索の意図的な制止の効果,メカニズム,そして調整要因を網羅的に概観した.また,思考抑制との相違点をもとに,検索の意図的な制止が忘却を引き起こす要因についても論じた.検索の意図的な制止は,対象の記憶の忘却を引き起こすだけでなく,記憶のかかわるさまざまな認知プロセス,さらには感情反応にも影響を及ぼす.その背後にある応答的な制御のメカニズムは運動や感情の制御と共通しており,領域普遍性を有する.検索の意図的な制止の制御メカニズムに関する大きな進展の一方で,忘却のメカニズムについては未解明な部分が多いことも明らかとなった.検索制止を事後効果も含めて包括的に理解することは,制御メカニズムの領域普遍性を踏まえると,運動や感情制御がもたらす効果の解明にも寄与し,ひいては認知的制御の統一的な理解に資するに違いない.
キーワード:記憶抑制,検索の意図的な制止,Think/No-Thinkパラダイム,認知的制御

講演論文/エピソード科学:記憶研究の新たな視点

企画代表者,話題提供者
伊藤友一(関西学院大学),松本 昇(信州大学),小林正法(山形大学)
話題提供者
西山 慧(京都大学),三好清文(京都大学)
指定討論者
村山 航(University of Tübingen),川口 潤(追手門学院大学)

エピソード記憶の想起は,過去の出来事を記述的に思い出すのではなく,過去の出来事を心的に再体験する感覚を伴う.すなわち,その記憶システムは,過去のエピソードに対するメンタルタイムトラベルを担っている.メンタルタイムトラベルは未来や反実仮想のエピソードへも可能であり,記憶システムはさまざまな時間軸でエピソードを(再)構成するものとして捉え直すことができる.この視点から,記憶システムがかかわる近年の研究を概観する.伊藤はエピソード的未来思考について,松本は自伝的エピソード記憶の詳細さについて,小林は外部記憶の利用によるcognitive offloadingについて,西山は記憶の意図的な制御と忘却について,三好は主観的メタ記憶の計算論とその反実仮想との関連性について紹介する.これら話題提供の後,村山と川口による指定討論を受け,記憶研究の新たな視点と今後の展開について議論する.
キーワード:エピソード記憶,エピソード的未来思考,認知的制御,認知負荷低減,メタ記憶

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