『認知心理学研究』 第20巻 第2号(2023年2月)
目次
- 原著/被害者との社会的距離と行動の落ち度が食中毒リスク認知に及ぼす影響(長谷部育恵・楠見 孝)
- 原著/嘘に伴う認知的負荷が有効視野に及ぼす影響:嘘の虚偽性と意図性に着目して(後藤理咲子・北神慎司)
- 講演論文/脳刺激研究の現在:認知心理学との接点(川島朋也・澁澤柊花・林 正道・池田尊司・田中悟志)
- 会報
日本認知心理学会2022年度第2回理事会報告
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Abstract
原著/被害者との社会的距離と行動の落ち度が食中毒リスク認知に及ぼす影響
長谷部育恵・楠見 孝(京都大学大学院教育学研究科)
自分の脆弱性は低く見積もられる傾向がある.本研究では,脅威遭遇事例の被害者の違いによる受け手のリスク認知への影響を検討した.社会的比較理論の先行研究から,「親友の脅威遭遇事例のほうが見知らぬ一般人の事例よりもリスク認知を高める」(仮説1),「行動に落ち度のない他者の脅威遭遇事例のほうが,落ち度のある他者の事例よりもリスク認知を高める」(仮説2)と仮説を立てた.740名の参加者が食中毒に対するリスク認知を評定した後,脅威遭遇事例を読み,再度リスク認知を評定した.脅威遭遇事例に登場する被害者は,関係の有無(親友・一般人)と落ち度の有無の観点で操作した.その結果,行動に落ち度のない他者の脅威遭遇事例のほうが,落ち度のある他者の事例よりもリスク認知を高めた.さらに,相関分析の結果からは,類似した他者に同化して自己のリスク評定がなされると考えられた.被害者との関係性の有無による差はみられなかった.最後に,社会的比較理論の観点を中心に結果を考察した.
キーワード:リスク認知,社会的比較,社会的距離,落ち度,リスクリテラシー
原著/嘘に伴う認知的負荷が有効視野に及ぼす影響:嘘の虚偽性と意図性に着目して
後藤理咲子・北神慎司(名古屋大学大学院情報学研究科)
本研究の目的は,嘘に伴う認知的負荷が有効視野を狭めるかについて検証することであった.実験では,参加者は嘘つき群と統制群のいずれかに割り当てられた.参加者はディスプレイに提示されたトランプカードを記憶した後,カードと同じ内容(一致条件)または異なる内容(不一致条件)を回答し,回答後に現れる光点の位置を同定するよう求められた.嘘つき群と統制群の相違は教示であり,嘘つき群の参加者は嘘をつく時には真実を話しているかのように振る舞い,実験者を騙すよう求められたが,統制群の参加者は求められなかった.光点の正答率から相対的に有効視野を測定した結果,嘘つき群は統制群よりも有効視野が狭まったが,一致条件と不一致条件の有効視野に差は示されなかった.以上の結果は,意図的に相手を騙すこと(嘘の意図性)による負荷は有効視野を狭めるが,事実と異なる内容を回答すること(嘘の虚偽性)および嘘をつく時に真実らしく振る舞うことによる負荷は有効視野を狭めないことを示唆するものである.
キーワード:虚偽検出,認知的負荷,有効視野,行動統制
講演論文/脳刺激研究の現在:認知心理学との接点
企画者
川島朋也(大阪大学)
話題提供者
澁澤柊花(情報通信研究機構未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター)
林 正道(情報通信研究機構未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター,大阪大学)
池田尊司(金沢大学)
指定討論
田中悟志(浜松医科大学)
電気刺激や磁気刺激などの脳刺激技術を用いて脳活動と認知機能の因果関係を調べる試みが続けられている.本稿では,さまざまな脳刺激研究を概観することで認知心理学研究の展開を考えることを試みた.池田はtDCS(経頭蓋直流電気刺激)とワーキングメモリ変調の可能性について,澁澤はtACS(経頭蓋交流電気刺激)と知覚変調の可能性について,林はTMS(経頭蓋磁気刺激)と時間知覚変調の可能性について紹介する.これらの話題提供の後,田中による指定討論を受け,脳刺激研究の新たな視点と認知心理学における今後の展開について議論する.
キーワード:経頭蓋直流電気刺激,経頭蓋交流電気刺激,経頭蓋磁気刺激