優秀発表賞

  優秀発表賞 | 優秀発表賞規定  | 過去の優秀発表賞

日本認知心理学会優秀発表賞

第22回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ

 日本認知心理学会優秀発表賞規程に基づき,選考委員会において慎重な審議を重ねた結果,発表総数件の中から,以下の9件(2部門での同時受賞を含む)の発表に優秀発表賞を授与することに決定しました.受賞者には第23回大会にて授与を行います.

2025年1月31日

※下記受賞者の所属表記はすべて,発表当時のものとなります.現在の所属と異なる場合もあります.ご了承いただけますと幸いです.
※お名前表記に*がある方は2025年1月28日時点での非会員です.次回大会時に予定されている授与式までに入会された場合には発表賞授与の対象となります.

新規性評価部門

受賞者(所属)

佐々木浩汰1,米満文哉1,有賀敦紀1(1.中央大学)

発表題目

生き物らしさを排除した不気味の谷現象 -知覚的・認知的処理流暢性の影響-

発表要旨

我々は人に類似した対象に強い不気味さを覚える(不気味の谷).先行研究はそのメカニズムについて嫌悪感情などに基づく仮説(e.g., 死への恐怖の回避)や認知処理に基づく仮説(カテゴリー化困難仮説)で説明してきた.認知処理に基づく仮説はアニマシーに依らずとも説明が可能であるが,先行研究では顔などアニマシーと切り離せない実験刺激が用いられている.したがって不気味の谷の生起にアニマシーが必要かどうかは明確ではない.そこで本研究ではアニマシーを伴わない幾何学図形でモーフィング図形を作成し,その分類に要する時間と好ましさの評価を調べた(実験1).その結果,分類の容易な図形は分類の難しい図形よりも好ましく評価された.さらに分類に伴う処理流暢性の低下が分類の難しい図形の好ましさ評価を下げていると仮定し,知覚(実験2)および認知(実験3)的処理流暢性の影響を検討した.本研究の結果はアニマシーが不気味の谷生起に必ずしも必要ではないことを示唆し,認知処理に基づく仮説を支持した.

選考理由

不気味の谷に関する研究は,わずかな例外を除き,生物やそれをモチーフとした対象を扱うことが主流である.本研究では,幾何学図形を刺激として用いた場合にも不気味の谷に類似した現象が観察されることを確認し,この現象が分類化をベースとしたメカニズムによって説明可能であることを示した.また,この現象を支える認知処理を包括的に理解することを目的とした実験2および実験3では,極めて工夫を凝らした操作が採用されており,研究の精緻さと独創性が際立っていた.さらに,不気味の谷に関連する複雑な理論的背景についても,瞬時に理解できるような明快で簡潔な説明がなされており,発表者の優れた説明力が発揮されていた.以上の点から,本研究は新規性・発表力評価部門の優秀発表賞にふさわしいと判断した.


技術性評価部門

受賞者(所属)

矢野口恵尚1,佐々木浩亮1,福井隆雄1(1.東京都立大学大学院 システムデザイン研究科)

発表題目

VR 環境下での視覚誘発性触知覚強度は接触物体色の輝度により調節される

発表要旨

本研究では,参加者自身の手腕をVR空間上の手腕モデルに合わせ,左から右に流れる接触物体が手腕モデルに接触した際に減速することで生じる触知覚(視覚誘発性触知覚)を検討した.個人特性(自閉傾向)にも考慮しつつ,接触物体色(灰色)の輝度が与える影響を明らかにするため,4段階の輝度を設定し,視覚誘発性触知覚に及ぼす影響を主観的評価値で評価した.さらに,視覚誘発性触知覚を与えない対照実験も行った上で,視覚誘発性触知覚が掌表面温度変化に及ぼす影響も検討した.手腕モデルへの接触時の減速率条件を10条件(0~90%,10%刻み)設定し実験を行った結果,視覚誘発性触知覚は,接触物体の視覚的速度減速が大きいほど生成されやすく,輝度が低いほど高くなった.自閉傾向が高い参加者ほど強い触知覚を経験することも示された.掌表面温度変化について,視覚誘発性触知覚により上昇すると結果を予測していたが,それとは逆に温度が下がる結果となり,今後さらにその情報処理過程の詳細を検討していく.

選考理由

本研究では,VR環境下で,自身の手の位置と同様の位置に手腕モデルが提示されている状態で,接近物体が手腕モデルに接触する位置で減速する際に生じる主観的な触知覚について,接触物体の輝度に影響を受けるかを検討している.視覚情報のみで触知覚が起こる現象の検討は,VR空間における感覚間相互作用の解明に加え,VRコンテンツのデザインにも応用できる発展性の高い研究と評価できる.本研究では,接触物体の輝度が小さいほど主観的な触知覚が大きくなるという,明るさ重さ錯覚で説明可能な結果を明確に示した上,触知覚の評価値と自閉傾向が正の相関を示し,自閉傾向とVR空間の知覚特性への示唆もあり,今後の発展が期待できる.これらの理由により,技術性評価部門の優秀賞に値する研究であると判断した.


受賞者(所属)

紀ノ定保礼 1,*山泉健1,川島朋也2(1.静岡理工科大学情報学部 2.金沢工業大学情報フロンティア学部)

発表題目

高齢期におけるハザード知覚の低下に関するベイズ統計モデリング

発表要旨

発表要旨:Wolfe et al. (2020)は心理物理学的手法により,80%の確率でハザード(交通事故につながりうる事象)を正しく検出するためには,高齢者は平均約403ms,若年者は平均220msecの観察が必要と推定した.本研究ではWolfe et al. (2020)の概念的追試を行い,Wolfe et al.が作成した動画刺激を高齢者と若年者に300/500/700msだけ呈示した.ベイズ統計モデリングの結果,仮説を反映した「300ms条件では若年者のみ約80%の確率でハザードを検出でき,500/700ms条件では高齢者の成績が若年者に追いつくモデル」は,帰無モデルや飽和モデルよりもデータと整合的であった.またその原因を探るため,信号検出理論を援用した探索的なベイズ統計モデリングも行った.本研究では,期待される正答率に関する事前知識や,条件差のパターンに関する仮説を反映したモデルにより,Wolfe et al.の再現性の確認とメカニズムの検証を行った点が特徴である.

Wolfe, B., Seppelt, B., Mehler, B., Reimer, B., & Rosenholtz, R. (2020). Rapid holistic perception and evasion of road hazards. Journal of Experimental Psychology: General, 149(3), 490–500. https://doi.org/10.1037/xge0000665

選考理由

本研究は,ドライバーは道路上や道路付近の重大な危険をどのくらい速く認識できるのかについて検討したWolfe et al. (2020)の概念的追試である.彼らの研究を踏襲し,本研究でも現実のドライビングを巧みにシミュレートできる実験状況が設定されている.つまり,実際のドライビングレコーダの映像を切り取ったデータベースが使用され,映像内のドライバーが事故を回避するために行動した時点から,300/500/700ミリ秒遡った映像が用いられた.Wolfe et al.の研究では高齢者において危険の検出が遅れることが指摘されているが,本研究においてもこの点が確認された.本研究では,それだけではなく,Wolfe et al.の研究で行われていなかった分析が用いられている.すなわち,ベイズ統計モデリングおよび信号検出理論を適用することによって,若年者と高齢者のハザード検出の違いを,Wolfe et al.の成果よりも,より精緻的に記述することが可能になった.筆者らは,高齢ドライバーが若年者と同程度の確率でハザードを検出するためには,300ミリ秒より長く交通環境を観察する必要がある可能性と,その原因には加齢に伴う知覚の変化が関係している可能性を示唆している.本研究は,技術性評価部門の優秀賞に値する研究である.


受賞者(所属)

七原宇紀 1,北神慎司2(1.名古屋大学大学院環境学研究科年環境学専攻 2.名古屋大学大学院情報学研究科心理・認知科学専攻)

発表題目

奥行きと知覚的流暢性が経路選択に与える影響

発表要旨

建築の空間形態は,利用者の経路の選択に影響している.またその空間形態の知覚的流暢性は,明るさや煙などによっても変化する.特に奥行きに着目すると,奥行きの異なる二つの分かれ道から一方の選択を行う場面では,奥行きの浅い側が選ばれやすいという報告と,深い側が選ばれやすいという報告の両方がある.本研究はこの対立する結果をもたらした要因の一つとして,実験刺激における奥行の捉えやすさが異なっていた点に着目し,流暢,非流暢な刺激の間で選択の偏りが異なるかを検討した.結果,刺激が流暢な場合には奥行きに対する選択の偏りは見られず,非流暢な場合には参加者の内,意図的に戦略をもって課題に取り組んだ群にて浅い側への偏りが観察された.戦略を持たなかった群では流暢性の高低によらず偏りが見られなかった.この結果は既往研究の報告のいずれとも合致せず,用いた刺激の生態学的妥当性の低さなど議論の余地があるが,一方で新たに,経路選択における参加者の意図的な戦略の有無の検討の必要性を指摘した.

選考理由

本研究は人の経路探索行動に影響を及ぼす要因として,知覚的流暢性と奥行き知覚の相互作用を検討したものである.発表者らは,ヘッドマウントディスプレイを用いて枝分かれする仮想空間を壁や床,天井のテクスチャのコントラストを変化させて提示した.その結果,参加者が仮想空間内で経路選択する際,知覚的流暢性の高さにより選択する経路の奥行に違いがあることが示された.本研究では,実空間に類似した空間への没入感を感じられるデバイスを有効に活用し,仮想空間の視覚刺激特性を段階的に操作することでこのような成果を得ており学術的貢献度も高いといえる.技術的にも,ヘッドマウントディスプレイの利用が広がりつつある中で,知覚研究における応用的活用の範囲については未知の点も多いため,本研究で示された使用方法は今後の研究展開にも影響を与えるものと高く評価できる.以上より,本研究を優秀発表賞技術性評価部門に値する研究であると判断した.


社会的貢献度評価部門

受賞者(所属)

三浦大志 1,松尾加代2(1.杏林大学 2.大阪河﨑リハビリテーション大学)

発表題目

目撃者遂行型調査が人物同定に及ぼす影響

発表要旨

目撃者遂行型調査 (SAI) は,目撃情報を効果的に取得できる質問紙である.事件直後に目撃者自身がSAIを通して記憶を想起することが後の目撃供述を促進する可能性が示されているが,SAIが後の人物同定に及ぼす影響は明らかでない.そこで本研究はSAIを行った後の同定の正確性について検討した.164名の実験参加者は架空の事件のビデオを視聴した後,SAI群はSAIを用いてビデオの内容を,統制群は自由記述で授業の内容を想起した.その後,ビデオの中の犯人の同定を行った.分析の結果,SAI群と統制群で人物同定の正答率に違いはなかったが,SAI群の方が,事前の想起が同定に好影響をもたらすと考えていた.また,同定でフォイルを選択した場合の確信度はSAI群の方が高かった.SAIを行った目撃者は,後の人物同定に関するメタ認知が不正確になる可能性があるため,確信度等の指標の評価は慎重に行う必要があると考えられる.

選考理由

目撃者遂行型調査 (Self-Administered Interview: SAI) は,海外で開発された質問紙形式の調査であり,事件や事故の現場で目撃者に回答を求めることによって,事後情報に汚染されない目撃証言を得ることができるとして評価されている.本研究は,厳密な実験室実験を通じて,目撃記憶に及ぼすSAIの実施の影響を検討したものであるが,特に,SAIの実施によって,事実と異なる目撃記憶の確信度を高めてしまうことを実証的に示した点が特筆すべき点である.かつ,事件や事故の現場で目撃者の証言を正確かつ適切に得るにはどうすべきかという問題は,日々さまざまな事件や事故と直面する現場にとって解決すべき緊急性の高い問題であり,社会的に重要であると考えられること,そして本研究の知見がSAIの適切な実施に向けての示唆を与えるものであることから,社会的貢献度評価部門の優秀発表賞に値すると判断された.


発表力評価部門

受賞者(所属)

佐々木浩汰1,米満文哉1,有賀敦紀1(1.中央大学)

発表題目

生き物らしさを排除した不気味の谷現象 -知覚的・認知的処理流暢性の影響-

発表要旨

我々は人に類似した対象に強い不気味さを覚える(不気味の谷).先行研究はそのメカニズムについて嫌悪感情などに基づく仮説(e.g., 死への恐怖の回避)や認知処理に基づく仮説(カテゴリー化困難仮説)で説明してきた.認知処理に基づく仮説はアニマシーに依らずとも説明が可能であるが,先行研究では顔などアニマシーと切り離せない実験刺激が用いられている.したがって不気味の谷の生起にアニマシーが必要かどうかは明確ではない.そこで本研究ではアニマシーを伴わない幾何学図形でモーフィング図形を作成し,その分類に要する時間と好ましさの評価を調べた(実験1).その結果,分類の容易な図形は分類の難しい図形よりも好ましく評価された.さらに分類に伴う処理流暢性の低下が分類の難しい図形の好ましさ評価を下げていると仮定し,知覚(実験2)および認知(実験3)的処理流暢性の影響を検討した.本研究の結果はアニマシーが不気味の谷生起に必ずしも必要ではないことを示唆し,認知処理に基づく仮説を支持した.

選考理由

不気味の谷に関する研究は,わずかな例外を除き,生物やそれをモチーフとした対象を扱うことが主流である.本研究では,幾何学図形を刺激として用いた場合にも不気味の谷に類似した現象が観察されることを確認し,この現象が分類化をベースとしたメカニズムによって説明可能であることを示した.また,この現象を支える認知処理を包括的に理解することを目的とした実験2および実験3では,極めて工夫を凝らした操作が採用されており,研究の精緻さと独創性が際立っていた.さらに,不気味の谷に関連する複雑な理論的背景についても,瞬時に理解できるような明快で簡潔な説明がなされており,発表者の優れた説明力が発揮されていた.以上の点から,本研究は新規性・発表力評価部門の優秀発表賞にふさわしいと判断した.


受賞者(所属)

今井裕大 1,*渡邊智美1,*尾形舞2,*村井翔太1,3,*野口瑞生1,*松本誠1,*加藤正晴4,*小林耕太1,2(1.同志社大学大学院生命医科学研究科 2.同志社大学生命医科学部 3.東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)4.同志社大学赤ちゃん研究センター)

発表題目

幼児期における音象徴の発達:3 歳~7 歳を対象とした物体命名実験

発表要旨

ある音が特定の印象を与える感覚現象を音象徴と言い, 幼児が音を手がかりとして言語を学習していることから音象徴は言語学習における認知心理学的基盤であることが考えられる. しかし子どもがどのようにして言語を獲得するのか, その発生とその後の発達過程は, まだ完全には解明されておらずその際に音象徴がどの場面でどのように積極的に使用されるのかまた音象徴と言語発達の詳細な対応関係についても未だ不明である. 以上のことから幼児期の音象徴に対する認識及び言語発達への利用について, より詳細を検証するため言語発達の後期である 3, 5, 7 歳の幼児と成人を対象に物体命名実験を行うことで年齢間における音象徴感度の発達を検討した. その結果,音象徴の完成は言語の初期発達より遅れることを示し大まかな言語発達が完成する7歳においても音象徴は発達の途中であり, 音象徴が言語発達に一方的に寄与するような対応関係ではない可能性が考えられた.

選考理由

本研究は,子どもを対象として,無意味単語に合う図形を選択させる課題を用い,音がイメージや意味を喚起する音象徴の発達を検討したものである.年齢が上がると音象徴の感度が成人に近づくが,7歳時点でも,成人ほど安定的ではないことを明らかにしている.このような結果が得られたのは,2つの無意味語と2つの図形を呈示する相対選択課題と,2つの無意味語から1つの図形に合うものを選ぶ絶対選択課題の両方を用いる工夫がなされたためである.発表においては,わかりやすいポスターに加え,刺激の無意味語の作成や命名される図形について別途呈示するなど,聴衆の理解を助ける有益な工夫・配慮がなされていた.以上の理由から,本研究は,発表力評価部門の優秀発表賞にふさわしい研究であると判断した.


国際性評価部門

受賞者(所属)

山祐嗣 1,*Maxime Bourlier2,*Veronique Salvano-Pardieu 2,*Ken I Manktelow3(1.大阪公立大学 2.Paris & University Vincennes-Saint-Denis 3.University of Wolverhampton(Emeritis))

発表題目

Religious belief, religious dialectical thinking, and the relation between thinking style and religious belief: A cross-cultural study of British, French, and Japanese

発表要旨

一般に,分析的な認知スタイルと宗教性の間には負の相関があると報告されている.一方,弁証法的思考として知られる東洋人が,宗教的信仰とその宗教的懐疑を弁証法的に受け入れていることは十分にありうる.本研究では,英国人,フランス人,日本人を対象にウェブ調査が行われた.彼らは,宗教性(下位尺度は向宗教性,加護,応報),反宗教性,宗教的弁証法的思考に関する賢明性判断,思考スタイル(下位尺度は直感的思考への選好(PIT),努力的思考への選好(PET),積極的開放的思考(AOT),閉鎖的思考(CMT))についての質問を受けた.宗教性と反宗教性の両方に賛成または反対する個人は,宗教的弁証法的思考者とみなされる.その結果,(1)日本人の応報スコアは英仏人よりも高い,(2)日本人は英仏人よりも宗教的弁証法的思考をする,(3)一般に,英仏人の宗教的信念はAOTによって抑制されるのに対し,日本人の宗教的信念はPITによって強化されることがわかった.東洋人は弁証法的に宗教を受け入れているので,宗教性については直感の影響は受けると同時に,西洋人のような分析的思考による抑制の必要性は低いと結論できる.

選考理由

本研究は,宗教的信念と思考スタイル,及びそれらの関係性について,イギリス人,フランス人,日本人を対象とした国際比較研究を行ったものである.調査の結果,日本人はイギリス人やフランス人よりも応報観念が強く,宗教性と反宗教性の両方に賛成または反対する傾向があることを明らかにしている.また,イギリス人やフランス人の宗教的信念が,自分の考えと異なる証拠を考慮する「開かれた思考」によって抑制される一方で,日本人の宗教的信念は「直感的思考」を好む傾向によって強化されることが示唆されている.本研究はイギリスおよびフランスの研究者との国際的な共同研究体制のもとで行われた点に特徴があり,このような文化間比較研究によってのみ得られる重要な知見を提供している.以上の点から,本研究は国際性と学術的貢献度の両面で高く評価でき,国際性評価部門の優秀賞にふさわしいと判断した.


総合性評価部門

受賞者(所属)

永井聖剛 1,*横井志保1,*金子優真1,*矢田祐風南1(1.立命館大学総合心理学部)

発表題目

Classification imageを用いた記憶顔の画像化

発表要旨

我々は見ている顔,記憶している顔に対応した視覚表象を有している.これらの視覚表象を画像として示すのは簡単ではないが,我々はclassification image(CI)を用い観察している2つの顔を区別して画像化できることを報告した.そこで本研究では,記憶顔に対しても画像化が可能かを検討した.参加者は事前に2つの顔画像(目標顔:女性顔AおよびB)を記憶し,実験では女性平均顔にランダムノイズを加算減算した顔画像を左右に対提示し,記憶した目標顔(セッション内でAまたはBに固定)に近い画像を選択させた.各試行で選択されたノイズ画像群に基づき2つの目標顔に対するCIがそれぞれ生成された.得られたCIは記憶した目標顔の特徴(目の形状,頬の膨らみなど)をうまく表現しており,実際に第三者の評価によってそれぞれのCIは目標顔に類似していることが示された.したがって,CIを利用することで記憶した顔も適切に画像化できることが確認された.

選考理由

本研究は,Classification Image法を用いて記憶された顔の画像化を試みたものである.本研究の特徴は,従来の研究が顔のステレオタイプの可視化にとどまっていたのに対し,記憶された特定個人の顔を画像化することに成功した点にある.さらに特筆すべきは,記憶された顔を含んでいない複数の顔の平均顔をベースイメージとしながら,その個人の顔を再構成できた点である.この手法の拡張は新規性が高く,本研究は記憶された顔の直接的な情報が含まれない状態でも,どの顔が見られたのかを明らかにできる可能性を示した.研究発表も明快であり,基礎的な問題の提起から始まり,手法の独自性とその結果が的確に示されるとともに,本手法の実用的な応用可能性にまで言及されていた.これにより,認知心理学の多様な分野において幅広い関心を引くものとなっていた.以上のように,従来手法を拡張し,認知心理学におけるClassification Image法の新たな可能性を示した本研究は,総合性評価部門の受賞にふさわしいと判断した.


  • Facebook
  • Hatena
  • twitter
  • Google+

表示されない場合には、上記リンクをクリックいただくか、プライベートブラウジングを解除してご覧ください。
PAGETOP
Copyright © 日本認知心理学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.