『認知心理学研究』第11巻 第2号

『認知心理学研究』第11巻 第2号(平成26年2月)

目次

  • 日本語母語者における漢字表記語のメモリスパンに対する形態情報と音韻情報の影響

    (水野りか・松井孝雄)

  • 顕在記憶指標・潜在記憶指標を用いたポジティヴ優位性に関する研究

    (上野大介・権藤恭之・佐藤眞一・増本康平)

  • 眼球運動の時系列解析による多属性意思決定における魅力効果と妥協効果に関する検討

    (都築誉史・本間元康・千葉元気・菊地 学)

  • 呈示時間が検索誘導性忘却の解除に及ぼす影響:若年者と高齢者からの検討

    (松田崇志・松川順子)

  • 語彙判断課題における仮名・漢字表記語の語長効果

    (楠瀬 悠・吉原将大・井田佳祐・薛 俊毅・伊集院睦雄・日野泰志)

  • 漢字語の命名における形態:音韻対応の一貫性および音・訓読の効果

    (井田佳祐・吉原将大・薛 俊毅・楠瀬 悠・佐藤ひとみ・日野泰志)

  • 幼児における描画構成の発達:空間認知と反応の切り替えの観点から

    (進藤将敏)

  • 第11回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ

    (行場次朗)

  • 会報

    日本認知心理学会2013年度 第2回理事会報告

    日本認知心理学会第12回大会ご案内

    日本認知心理学会公開シンポジウムの報告

    日本認知心理学会 第1回社会連携シンポジウムの報告

    受領図書

    事務局からのお知らせ

    日本認知心理学会 会則

    日本認知心理学会選挙細則

    「認知心理学研究」諸規程

 

Abstract

日本語母語者における漢字表記語のメモリスパンに対する形態情報と音韻情報の影響1)

水野りか・松井孝雄(中部大学)2)

本研究では,日本語母語者の日本の漢字表記語のメモリスパンには形態情報の影響が大きく音韻情報の影響は少ないことを検証することを目的とした.実験1では,漢字表記語の形態的長さを統制し,音韻的長さの語長効果への影響を調べた.その結果,モーラ数とメモリスパンは直線的な比例関係にはなく,また,読みの速度の速い参加者ほどメモリスパンが大きいわけではないことが明らかとなった.実験2では,単語の音韻的長さを統制し,形態的長さの語長効果への影響を調べた.その結果,文字数とメモリスパンには明確な直線的な比例関係が認められた.実験3では,メモリスパンへの形態的隣接語数の影響を,標準読みと熟語訓の漢字表記語で比較した.その結果,形態的隣接語数の影響は2種の漢字表記語間で差がなかった.これらの結果は,日本語母語者の漢字表記語のメモリスパンには,音韻情報の影響が少なく,形態情報の影響が大きいことを示している.

キーワード:漢字表記語,形態情報,音韻情報,メモリスパン,日本語母語者

 

顕在記憶指標・潜在記憶指標を用いたポジティヴ優位性に関する研究1)

上野大介(ECC国際外語専門学校大学編入コース)
権藤恭之・佐藤眞一(大阪大学大学院人間科学研究科)
増本康平(神戸大学大学院人間発達環境学研究科)

これまでの研究では,顕在記憶にポジティヴ優位性がみられることが報告されているが,潜在記憶に感情価が及ぼす影響の年齢差については明らかにされていない.本研究では感情価が顕在記憶と潜在記憶に及ぼす影響に関する年齢差を検討した.実験1では,48名の若年者群と48名の高齢者群がポジティヴ,ネガティヴ,ニュートラルの写真をニュートラル単語の直前に呈示することによって感情価を付加した単語を記銘し,その後,自由単語再生課題を受けた.実験2では,27名の若年者群と30名の高齢者群が実験1と同様の記銘後,語幹完成課題を受けた.顕在記憶では若年者群のネガティヴ条件の成績が高く,高齢者群にポジティヴ優位性が確認された.潜在記憶では両年齢群ともポジティヴ条件とネガティヴ条件の成績がニュートラル条件の成績よりも高かった.これらの結果は,ポジティヴ優位性が意図的な処理で生起していることを明らかにし,社会情動的選択性理論を支持するものであった.

キーワード:ポジティヴ優位性,情動記憶,情動増強,社会情動的選択性理論,加齢

 

眼球運動の時系列解析による多属性意思決定における魅力効果と妥協効果に関する検討1)

都築誉史(立教大学)
本間元康(国立精神・神経医療研究センター)
千葉元気(立教大学大学院現代心理学研究科)
菊地学(立教大学)

多属性意思決定における魅力効果と妥協効果は,合理的選択公理に違反している.二つの文脈効果の基本メカニズムについて検討するため,実験参加者の眼球運動を測定し,情報探索と情報獲得のパターンを分析した.20名の大学生を二つの文脈効果条件にランダムに割り当てた.実験参加者は,2属性について記述された3選択肢からなる12個の仮想の購買課題を行った.2条件の選択率に関して,有意な文脈効果を確認できた.2条件において,選ばれた選択肢に対する眼球運動停留時間は有意に長く,選ばれた選択肢に対する内部サッカード頻度は有意に高かった.2条件において,選ばれた選択肢を含んだ2肢間サッカード頻度は,有意に高かった.さらに,サッカードに関する時系列解析の結果,選ばれた選択肢を含む2肢間サッカードは増加するが,選ばれた選択肢を含まない2肢間サッカードは減少することが明らかとなった.こうした結果は,意思決定において文脈効果が生じる基本メカニズムを解明するため,眼球運動測定が必要不可欠であることを示唆している.

キーワード:意思決定,眼球運動測定,文脈効果,魅力効果,妥協効果

 

呈示時間が検索誘導性忘却の解除に及ぼす影響:若年者と高齢者からの検討1)

松田崇志2)・松川順子(金沢大学)

本研究では,若年者(実験1)と高齢者(実験2)を対象に,呈示時間が検索誘導性忘却における抑制の解除に及ぼす影響を検討した.典型的な検索経験パラダイムを用い,学習段階では呈示時間を操作し,最終テスト段階では再認テストを行った.正再認時間について,両実験において抑制の影響がみられ,若年者と高齢者共に抑制が生じていたことが確認された.正再認率について,若年者群では,呈示時間が短い条件で検索誘導性忘却がみられたが,呈示時間が長い条件ではみられず,学習時間が長いときに抑制の解除が起こりやすいことが示された.高齢者群では,呈示時間にかかわらず検索誘導性忘却がみられ,抑制の解除が起こりにくいことが示された.これらの結果から,若年者では,呈示時間が抑制の解除に影響を与え,呈示時間が長いほうが抑制の解除が起こりやすいことが示唆された.一方,高齢者では,抑制の解除が困難であることと呈示時間が抑制の解除に影響しないことが示唆された.

キーワード:検索誘導性忘却,抑制の解除,呈示時間,加齢

 

語彙判断課題における仮名・漢字表記語の語長効果1)

楠瀬悠・吉原将大・井田佳祐・薛俊毅(早稲田大学大学院文学研究科)
伊集院睦雄(東京都健康長寿医療センター研究所)
日野泰志(早稲田大学文学学術院)

語彙判断課題を使ってカタカナ三文字語と四文字語間および漢字二字熟語と三字熟語間の課題成績の比較を試みた.カタカナ表記語には語長効果は観察されなかったが,漢字表記語には有意な語長効果が観察された.漢字三字熟語に対する反応時間は漢字二字熟語に対する反応時間よりも有意に長かった.この効果は,漢字表記語群間で形態隣接語数を統制しても観察された.漢字表記語は複合語であったのに対して,カタカナ表記語は単語であったことから,漢字表記語のみに観察された語長効果は,形態素数の差異を反映する効果であるものと思われる.漢字表記語の読みに,形態素への分解と統合を仮定すると語全体レベルの表象へのアクセスには,分解された複数の形態素に対する再統合が必要である.漢字三字熟語のほうが,二字熟語よりも複雑な形態素構造を持つため,この統合処理において語長効果が生じたものと思われる.本研究の結果は,語の読みの処理の性質が,その語が持つ形態素構造に強く依存することを示唆する.

キーワード:語長効果,形態素,漢字表記語,カタカナ表記語,語彙判断課題

 

漢字語の命名における形態:音韻対応の一貫性および音・訓読の効果1)

井田佳祐・吉原将大・薛俊 毅・楠瀬 悠(早稲田大学大学院文学研究科)
佐藤ひとみ(浴風会病院)
日野泰志(早稲田大学文学学術院)

漢字語の命名成績は,漢字レベルの形態―音韻対応の一貫性の程度に依存するのか,それとも漢字の読みの種類(音読 vs. 訓読)に依存するのかを検討するため,実験1では,形態―音韻対応の一貫性を統制した漢字二文字による音読熟語と訓読熟語の命名成績の比較を試みた.実験2では,訓読による漢字一字語の命名成績に,その漢字の音読比率の効果が観察されるかどうかを検討した.実験1では,音読熟語と訓読熟語間に命名成績の差は検出されなかった.実験2では,音読比率が低い漢字ほど,訓読による命名反応が速かった.これらの結果は,漢字語の命名成績は,漢字レベルの形態-音韻対応の一貫性に依存するが,漢字の音訓には依存しないことを示すものであった.

キーワード:漢字語,形態―音韻対応の一貫性,漢字の音訓,命名課題

 

幼児における描画構成の発達:空間認知と反応の切り替えの観点から

進藤将敏(東北大学大学院教育学研究科)

本研究では,幼児期の描画構成の発達にかかわる認知的側面を捉える目的から,描く大きさと位置を捉えるための空間認知能力と状況に応じて描く反応を切り替える能力に着目した.4歳児20名,5歳児22名,6歳児21名が描画課題,空間認知課題,切り替え課題のおのおのに参加した.主な結果として,(1)描画課題では通常描かれにくい非標準型の対象の描画が5歳児から6歳児にかけて増加した.(2)空間認知課題と切り替え課題では,年齢とともに得点が向上した.(3)年齢を統制した場合,非標準型を描いた参加児と標準型を描いた参加児の違いとして,前者のほうが後者よりも空間認知得点および切り替え得点が共に高いことが明らかとなった.以上から,空間認知と反応の切り替えは別個の要因であるが,両者は共に描画構成の発達に関与することが示唆された.

キーワード:幼児,描画構成,空間認知,反応の切り替え

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