設立趣意書

日本認知心理学会 設立趣意書

新学会設立と発起人参加のお願い

下記の新学会設立趣意書にご賛同を願える方は、発起人として、本文末尾にある項目に御回答の上、「現在の世話人」 もしくは学会事務局まで、氏名、所属、メールアドレスをご連絡ください。またこの件に関するご意見をお聞かせ願えれば真に幸いです。
今後の予定としては、次のようです。
(1) 発起人の中で、「現在の世話人」をベースとして設立世話人会を組織し、学会設立準備の検討を行う。
(2) 日心大会@広大の,前日9月24日に第1回設立準備会を開く(広島市内)。
(3) 来年の春に、新学会を立ち上げる。
(4) 来年度中に、「日本認知心理学第1回大会」を開催する。

発起人になっていただいた方には、この間の経過をニューズレター(メール)でお知らせします。また、発起人の方は、自動的に新学会会員になるということではありません。後日,別途に入会の有無についてはお伺いいたします。
以上、よろしくお願いします。    

「日本認知心理学会」(仮称)設立趣意書

ここ数年,学会や研究会において、認知や記憶を研究している仲間たちと話す中で「認知心理学会(仮称)」を新しく立ち上げることを検討してもよい時期になったのではないか,という話が時々もちあがりました。
その理由は次の通りです。

1.認知研究の急速な展開

現在、認知研究は凄まじい勢いで周辺領域に展開されつつあります。神経心理学と融合し、神経認知心理学という新たな領域が形成されつつあり、また考古学に取り入れられ認知考古学という新しい学問が,欧米でそして日本で急展開をしようとしています。伝統的知覚研究の分野でも、工学分野の熱い視線を受けて,人間の「感性認知」を研究するようになりましたし,記憶研究も目撃証言の研究に射程を広げ、応用認知心理学とよばれる新領域を開拓しつつあります。さらに,認知心理学の立場から人とモノの相互作用分析を行っている認知工学領域も,インタフェース学会,人間工学会,安全工学領域など,様々な領域でその重要性が「認知」されつつあります。
これらの諸領域は,共通した学問的ルーツをもち,共通したコトバで考えているにも関わらず,それぞれの「応用されている適用領域の学会で」の活動が中心であり,「一つの土俵」で議論する機会に恵まれていないという現状があります.

2.潜在的な認知研究への要望の高まり

その他にも,人口の急速な高齢化、社会におけるアメニティや「安全」の要求の高まりなど、人の認知特性、記憶能力、感性などに対する評価・分析の専門家を求める社会的ニーズは,潜在的にもかなり高いと思われます。
実際,厚生労働省,経済産業省などの関係者との会話においても,「人間のことがよくわからない,人間側のデータ、情報が足りない」というコメントがしばしば聞かれます。それにも関わらず、現状では,認知心理学研究の社会へのアピールは弱く,上記のような「情報がほしい」と言っている人たちにとってさえ,「心理学、中でも認知心理学研究者に相談すればよい」という認識は希薄である,というのが現状です。
これは私たち,認知心理学研究者にとっては大変残念な状況であるといわざるを得ません。
そこで,確固たる基礎研究を基盤にした上で,応用的展開を計り、社会に貢献していくために、認知の基礎研究から応用研究にまたがる新学会を立ち上げる必要があるのではないか,と考える次第です.

 

3.社会的な存在としての新学会の役割

特に高度専門職の基礎として 学会を立ち上げることにより,社会の側からこの領域の研究の存在・状況を「見えやすくする」ことが可能になると思います.そのことは,ここ二、三十年の間の認知心理学研究の結果として蓄積されている「社会に還元可能な研究成果」を表舞台に出していくことを可能にすると思われます。
同時にこれらの成果の蓄積を基に、将来,社会に貢献できる専門家を養成し,世に送り出していくという「学問領域としての責任」を果たしやすくなる,という側面があります。この問題は、個々の研究室や1人の研究者が対応できるものではなく、学会の衆智を集めた組織的対応が必要です。
一例をあげれば、「認知能力の測定・評価」としての「認知能力テストの作成とその利用」といった技術・能力を持つ専門家の養成は、急速な高齢化を迎えた現代日本においては高い潜在的需要があるにも関わらず、いまだにどの学会も組織的対応を行っていません。そこで,認知関係の研究成果をもとに、どのようなテスト(バッテリー)が適当かを検討すると同時に、専門家を養成するカリキュラムを考えたり、その資格認定などを行って専門的技能の保証をするなどの仕組を検討することなどが可能であり,必要な時期に来ていると考えられます。
現在,社会において,心理学を基盤とした「高度専門職」は臨床心理学士ばかりが前面に出ている感があります.しかし,前述のように,認知研究に基づく「高度専門職」は必要であり,それを世に送り出しやすい社会的装置を作っていく必要があるのではないか,その点が今回の新学会設立に向けた動機の大きなものとなっています.

 

4.新学会の対象領域と既存学会との関係

従来より,認知領域の研究者が一堂に会して,上記のような話をする場として,日本心理学会があります.しかし,日本心理学会は「巨大化」しており,上記のような問題に迅速に対応していくことが難しいと思われます.
また巨大化自体が現在大きな問題となっており,今後,分化していく可能性がありますが,現状では,分科会化した場合に「唯一,受け皿がない領域」として、いわゆる認知領域があることも今回の新学会設立の動機の一つです.
新学会が対象とする学問領域は、通常の日心大会でいう「知覚」「認知」「記憶」「言語」「思考」などが挙げられますが、心理学の他領域〔社会心理学、臨床心理学、教育心理学など〕や隣接科学(神経科学、コンピュータ科学、社会学など)を専門とする場合でも、認知に興味をもつ研究者の参加も当然可能となります。
これまでにも,認知の基礎的側面に関わる心理学会としては,例えば「基礎心理学会」がありますが,この学会は文字通り「基礎」のみが対象となっています.また,応用的展開に関する学会として「応用心理学会」がありますが,こちらは逆に応用領域に特化しており,認知心理学関係の基礎的,基本的な議論の場としては適合性が高くありません.
最も近い学会としては,「日本認知科学会」および「法と心理学会」がありますが,前者は「やや理論的・モデル的志向性が強く,必ずしもすべての認知心理学的な基礎-展開研究を発表する場とはなっていない」という認識がもたれています(たとえば,実験方法に関する細かい議論などはしにくい,という側面があります)。また,後者は,その基本的考え方は今回の新学会と軌を一にするものと思われますが,主たる目的が法学領域との融合であるため,上述のような「異なる応用領域での意見交換」という目的には必ずしもそぐわない状況です.
以上から,認知心理学の基礎的・応用的研究について意見交換のできる場としての学会,現代の認知研究の動きを意識した、新たな学会の構築を行うべき時期ではないか,そのように考える次第です.そして新学会の主要な事業としては、大会の開催、機関誌の発行、資格の認定などを考えております。  

現在の世話人(2002.7.29現在)

氏名(50音順)
厳島行雄・伊東裕司・太田信夫・行場次朗・高橋雅延・箱田裕司・原田悦子・三浦佳世・三浦利章

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