『認知心理学研究』第12巻 第1号

『認知心理学研究』第12巻 第1号(平成26年8月)

目次

  • 高齢者における日常記憶の自己評価:メタ記憶質問紙による検討
    (清水 寛之・高橋 雅延・齊藤 智)

  • 能動的随伴性課題における反応確率効果におよぼす結果密度の影響
    (久保田 貴之・漁田 武雄)

  • 作動記憶容量が帰納的規則推論に与える影響に関する実験的検討
    (松室美紀・三輪和久)

  • 予期しない現象の原因同定に加齢が及ぼす影響と協同による改善効果
    (寺井 仁・三輪和久・田嶋あゆみ)

  • アンカリング効果のメカニズムにおける「カバー効果」の検討
    (杉本 崇・高野陽太郎)

  • 会報

    日本認知心理学会第12回総会報告

    2013年度決算

    2014年度予算・新規事業計画案

    第13回大会のお知らせ

    2013年度研究部会からの活動・会計報告

    受領図書

    お知らせ

    日本認知心理学会 会則

    日本認知心理学会選挙細則

    「認知心理研究」諸規定

 

Abstract

高齢者における日常記憶の自己評価:メタ記憶質問紙による検討1)

清水寛之(神戸学院大学人文学部)
高橋雅延(聖心女子大学文学部)
齊藤 智(京都大学大学院教育学研究科)

いくつかのメタ記憶質問紙は,さまざまな人たちを対象に,日常生活におけるメタ記憶の構造や機能を検討する際に幅広く利用されている.本研究の目的は,メタ記憶質問紙のなかでも代表的な三つの質問紙,日常記憶質問紙(EMQ)と認知的失敗質問紙(CFQ)と日常生活における記憶能力質問紙(MAQ)を用いて,高齢者におけるメタ記憶の特徴および記憶の加齢変化を検討することにある.地域の高齢者大学校に通う60~88歳の高齢者344名を対象に,EMQ(28項目)とCFQ(25項目)とMAQ(31項目)の3種類のメタ記憶質問紙が実施された.その結果(分析対象334名)を,同様のメタ記憶質問紙に対して多数の若齢者(大学生809名)の基準データを得た先行研究の結果と比較した.その結果,人名の記憶を除くほとんどの日常記憶の諸側面において,高齢者のほうが若齢者よりも記憶能力の自己評価が高かった.こうした調査結果は,主として高齢者と若齢者における日常生活での記憶負荷の違いなどに関連して議論された.
キーワード:日常記憶,メタ記憶,メタ記憶質問紙,加齢

 

能動的随伴性課題における反応確率効果におよぼす結果密度の影響1), 2)

久保田貴之(静岡大学創造科学技術大学院)
漁田武雄(静岡大学大学院情報学研究科)

本研究は,能動的随伴性課題における反応確率効果におよぼす結果密度の影響を調べた.反応確率効果は,反応と結果の同時発生を経験することで,随伴性評価が高まると説明される.反応確率効果は先行研究によって示されているが,その研究では,学習フェーズにおいて参加者が経験する結果密度として,1つの値だけを用いていた.そこで,本研究は,3つの結果密度の値(実験1:76%, 24%;実験2:10%)を用いて,反応確率効果を再度調べた.実験の結果,結果密度が76%の条件において反応確率効果が生じ,ほかの条件では生じなかった.本実験結果は,反応確率効果が高い結果密度を経験したときに限って生起することを示唆している.
キーワード:反応確率,結果密度,能動的随伴性判断

 

作動記憶容量が帰納的規則推論に与える影響に関する実験的検討

松室美紀・三輪和久(名古屋大学)

本研究の目的は,作動記憶容量(Working Memory Capacity; WMC)と帰納的規則推論課題の成績の関連,および,そのような関連がどのように生じるのかを明らかにすることである.以下の三つの仮説の検討を行った.多くのWMCに関する先行研究から,仮説1:WMCが大きい参加者のほうが規則発見の成績が高い,が導かれた.さらに,WMC得点は情報の保持量と注意のコントロールを反映するという観点から,二つの仮説を挙げた.仮説2:WMCが大きい参加者のほうが,WMCが小さい参加者に比べ,事例の比較を積極的に行う.仮説3:WMCが大きい参加者は,検討中の要因に持続的に注意を集中できるが,WMCが小さい参加者は,ほかの要因に注意を奪われ注意の集中が続かない.眼球運動計測を用いた実験の結果,第1,第2の仮説は支持されたが,第3の仮説は支持されなかった.この結果から,WMCと規則推論の成績の関連は,検討要因ヘの注意の持続力ではなく,情報の保持量の差異に基づいて生じることが示唆される.
キーワード:帰納的規則推論,作動記憶容量,眼球運動測定,情報の保持量,持続的注意

 

予期しない現象の原因同定に加齢が及ぼす影響と協同による改善効果

寺井 仁(名古屋大学大学院情報科学研究科/JST CREST)
三輪和久(名古屋大学大学院情報科学研究科)
田嶋あゆみ(京都大学医学部附属病院リハビリテーション部)

本研究では,マジックのトリックを解決する課題を対象に,(a)予期しない現象の原因同定に加齢が及ぼす影響,および(b)高齢者同士の協同が原因同定に与える効果について実験的な検討を行った.実験の結果,高齢者の原因同定のパフォーマンスは若齢者に比して低下することが示され,トリックが存在する箇所および存在しない箇所の弁別が困難であることが示された.一方,すでに得られた情報を起点として原因を探るという問題解決方略は高齢者においても保持されていることが示された.また,高齢者が協同して助け合うことにより,原因同定のパフォーマンスの向上が認められ,そのプロセスにおいて,得られた情報を起点とした原因の推測がより改善され,トリックが存在する箇所への疑いがより強められることが明らかとなった.しかしながら,トリックが存在しない箇所に対する疑義の棄却に関しては協同による助け合いの効果は認められなかった.
キーワード:予期しない現象,原因同定,加齢,協同,トラブルシューティング

 

アンカリング効果のメカニズムにおける「カバー効果」の検討

杉本 崇(神奈川大学)
高野陽太郎(東京大学人文社会系研究科)

従来アンカリング効果は数的な過程によって起こるとされていたが,近年ではアンカーによって実験参加者の持つ知識が選択的に活性化されるために起こるという意味的過程モデルが提唱されている(Mussweiler & Strack, 1999a).杉本・高野(2011)では,このモデルを検討するために参加者が非常に乏しい知識しか持ち合わせない対象について推定させたところ,意味的過程によって効果が起こりえないときは数的過程によって効果が起こるというメカニズムが示された.本研究の目的はその「カバー効果」を再検討することである.そのため,「曹操」と「コバール」を推定対象として採用した二つの実験を行った.その結果,双方の実験で「カバー効果」を再現することができた. 

キーワード:アンカリング効果,意味的過程,数的過程

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