『認知心理学研究』第22巻 第2号

『認知心理学研究』 第22巻 第2号(2025年2月)

目次

  • 原著/日本語無意味語におけるインアウト効果の検討(大竹裕香・山本健太郎・布目孝子・山田祐樹)

  • 原著/文字フォントが単語の感情価判断に及ぼす影響(郷原皓彦・花井日華里・梶川 丈・野間悠希奈・山本朗義・山崎竣介・入戸野 宏)

  • 原著/神経科学的説明と魂への信念: 日本の文化的視点からの検討(月元 敬・桑原知礼)

  • 原著/Evaluating the potential of CogEvo to detect early neurocognitive declines in healthy middle-aged and elderly individuals within Japan(Tetsuya TAKAOKA・Keiji HASHIMOTO・Nobuyuki KAWATE)

  • 原著/なつかしさに自己不連続性が与える影響—Sedikides, Wildschut, Routledge, & Arndt( 2015)の概念的追試—(池田寛香・倪 楠・山本 希・楠見 孝)

  • 資料/4-Component inking Styles Questionnaire日本語版の作成(中村紘子・高橋達二・眞嶋良全)

  • 資料/反復接触時の背景画像の変化が対人評価に与える影響(福谷まさみ・布井雅人・松田 憲)

  • 優秀発表賞/第22回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ(梅田 聡)

  • 優秀論文賞/2024年度日本認知心理学会優秀論文賞

  • 会報
    日本認知心理学会2024年度第2回理事会報告
    第23回大会のお知らせ
    受領図書
    お知らせ
    日本認知心理学会 会則
    日本認知心理学会選挙細則
    「認知心理学研究」諸規程

Abstract

原著/日本語無意味語におけるインアウト効果の検討

大竹裕香(九州大学大学院人間環境学府)
山本健太郎(九州大学大学院人間環境学研究院)
布目孝子(名古屋大学人文学研究科)
山田祐樹(九州大学基幹教育院)

 インアウト効果とは,調音点の移動方向によって単語の好ましさが異なる現象を指す.これまでの研究において,インアウト効果は印欧語族を中心とする様々な言語圏で生じることが示されて来た.一方で,日本語話者を対象とした研究は非常に少なく,刺激統制の面で課題が残されている.そこで本研究では,日本語独自の無意味語刺激プールを作成し,さらに語頭の有声阻害音の数を統制した上でもインアウト効果が生じるかどうかを検証した.二つの実験の結果,インアウト効果が日本語話者においても見られること,またその効果は語頭の有声阻害音の数を統制した場合にも生じることが示された.これらの結果は,これまでWEIRD圏を中心に行われてきた先行研究の知見を拡張し,インアウト効果の頑健性をさらに示唆するものである.
キーワード: 音象徴,調音,インアウト効果,好ましさ,無意味語

原著/文字フォントが単語の感情価判断に及ぼす影響

郷原皓彦(大阪大学大学院人間科学研究科)
花井日華里・梶川 丈・野間悠希奈・山本朗義・山崎竣介(大阪大学人間科学部)
入戸野 宏(大阪大学大学院人間科学研究科)

 本研究では文字フォントが漢字二字からなる単語の感情次元における判断に影響を及ぼすかを検討し
た.実験では快あるいは不快な意味を持つ日本語の単語を丸フォントまたは尖フォントで提示した.参加者(N=92)は提示された単語の感情価をできるだけすばやく正確に判断する課題を行った.あわせて,丸フォントと尖フォントそれぞれの印象をセマンティック・ディファレンシャル(SD)法によって測定した.実験の結果,丸フォントが尖フォントよりも快の感情価をもつことが確認された.さらに単語の感情価とフォントの感情価が一致しているときは,不一致のときに比べて,反応時間の中央値が短くなった.この一致性効果は,尖フォントに比べて丸フォントのときに大きかった.これらの結果は,課題に関連しないフォントの情報が単語の意味の感情価判断に影響することを示唆している.
キーワード: フォント,感情価,一致性効果,反応時間,干渉

原著/神経科学的説明と魂への信念: 日本の文化的視点からの検討

月元 敬(岐阜大学教育学部)
桑原知礼(岐阜大学大学院教育学研究科)

 神経科学により多くの心理現象(例:道徳,主体性)の神経相関が明らかにされてきている.この台頭は,心身二元論や魂の存在に関する考え方に挑戦していると言える.Preston et al. (2013)は,心を機械論的に説明する神経科学的情報に接触すると,身体と魂のどちらを保存するかを問うジレンマ課題において,魂を保存する選択が減少する一方,神経科学で説明し切れない点が強調されると魂を保存する選択が高まることを示した.本研究は,他国と異なり独特な宗教性や信仰心を持つ日本でも,同様のパターンが見られるか検討することを目的とした.実験の結果,心について「魂というよりも脳の働きの影響が強い」と考える人が神経科学的情報に触れた場合に,身体を保存する選択を強める可能性があることが示された.また,当初,心身二元論尺度は1因子の想定だったが,本研究では,魂への信念に関する因子と,心を脳機能と捉える因子の2因子構造を取ったため,日本人の心の捉え方が欧米とは異なっている可能性が考えられる.
キーワード: 心身二元論,魂への信念,心の知覚,文化的影響

原著/Evaluating the potential of CogEvo to detect early neurocognitive
declines in healthy middle-aged and elderly individuals within Japan

Tetsuya TAKAOKA, Keiji HASHIMOTO and Nobuyuki KAWATE (Department of
Rehabilitation Medicine, Showa University School of Medicine)

 本研究は健康な中高年者を対象として,コンピュータを用いた認知機能評価ツールであるCogEvoの年代ごとの基準点を決定し,その特徴を検討することを目的とした.さらに,CogEvoを用いてMoCA-Jスコアが25点以下の人を検出するときの感度と特異度も検討した.この研究は横断的研究であり,2つの二次データからなるデータセットを用いた.データ1は株式会社トータルブレインケアから提供された一般市民の参加者のCogEvoスコア,年齢,性別のデータで,人数はCogEvoのタスクごとに異なる(726~1421名).データ2は地域在住の中高齢者20名のデータで,背景とCogEvoスコア,MoCA-Jスコアが含まれている.解析の結果,CogEvoからMoCA-Jスコアが25点以下の人を検出する感度は66.7%,特異度は63.6%と高くなかった.しかし,データ1でCogEvoのFlashing Lightsスコアが60歳代から低下し始めており,CogEvoは健康な中高年の加齢に伴う視覚運動認知機能低下を検出するのに有効である可能性が示唆された.
キーワード: 認知症,軽度認知障害,神経認知機能,コンピュータによる診断,中高齢者

原著/なつかしさに自己不連続性が与える影響̶Sedikides, Wildschut, Routledge, & Arndt( 2015)の概念的追試̶

池田寛香・倪 楠(京都大学大学院教育学研究科)
山本 希(京都大学大学院文学研究科)
楠見 孝(京都大学大学院教育学研究科)

 本研究は,ネガティブな自己不連続性が日常生活でなつかしさを感じる傾向と相関し,状態なつかしさの喚起度を高めることを示したSedikides et al.( 2015)の概念的追試を行うことを目的とした.研究1では,生活の変化がポジティブ,ネガティブであるか回答し,その変化に由来する自己不連続性を評定するよう手続きを修正した.その結果,ネガティブな変化の多さとなつかしさ傾向の相関は非有意であり(.07),自己不連続性となつかしさ傾向は有意な相関を示した(.20).年齢を統制すると後者の相関はわずかに低下し非有意になった(.18).探索的分析により,なつかしさ傾向はポジティブな変化ではなくネガティブな変化に由来する自己不連続性とのみ正に相関することが示された.研究2Aでは先行研究と同じ材料を用いて,研究2Bでは新たな材料を用いて自己不連続性の実験操作を行ったところ,自己不連続性は状態なつかしさの喚起度に影響を与えなかった.これらの結果から,ネガティブな自己不連続性はなつかしさ傾向と関連するが,状態なつかしさの喚起度を高めないことが示された.
キーワード: なつかしさ,自己不連続性,ライフイベント,個人差

資料/4-Component Thinking Styles Questionnaire日本語版の作成

中村紘子(東京電機大学,日本学術振興会)
高橋達二(東京電機大学)
眞嶋良全(北星学園大学)

 本研究では,直感的–分析的な思考スタイルを測定する4-Component inking Styles Questionnaireの日
本語版(4-CTSQ-J)を開発し,2つの調査により尺度の因子構造,信頼性,妥当性を検討した.調査の結果,4-CTSQ-Jはオリジナル版の4-CTSQと同様の因子構造を持ち,開放的思考,閉鎖的思考,熟慮的思考選好,直感的思考選好の4つの下位尺度から構成され,内的整合性があることが示された.4-CTSQ-JはCognitive Reection Testの成績と相関し,実証的根拠を欠いた信念,推論課題の成績,主観的幸福感,共感性と関連を示した.いくつかの下位尺度は,他の尺度よりも特定の結果に対して強い関係を示した.これらの結果は,直観的-分析的思考スタイルの複数の次元の個人差が,さまざまな信念や行動に影響を及ぼす可能性を示唆している.思考スタイルにおける文化的差異と,非WEIRDの文脈における尺度の妥当性について議論を行った.
キーワード: 二重過程理論,思考スタイル,直感的思考,分析的思考

資料/反復接触時の背景画像の変化が対人評価に与える影響

福谷まさみ・布井雅人(椙山女学園大学)
松田 憲(北九州市立大学)

 本研究では,反復接触時の室内背景画像の変化の有無が,画像人物の評価に及ぼす影響について検討した.具体的には,ある人物と毎回同じ場所で会うことで親近性が高まりやすく,その人物の評価が高まるのかどうか,それとも毎回異なる場所で会うことで,親近性に新奇性が付加され,評価が高まるのかを検討した.実験では,室内背景画像と人物画像を組み合わせて呈示し,人物画像の反復呈示ごとに異なる背景画像が呈示されるか,同一の背景画像が呈示されるかを操作した.実験1では,真顔人物を使用し,呈示回数を3回,6回,9回と操作した.実験2では,笑顔人物を使用し,呈示回数を3回,6回,9回,12回と操作した.その結果,背景が変化する場合の方が,少ない呈示回数で人物への好意度(好感度)の上昇が見られた.これは,反復呈示に伴う親近性の上昇に加え,背景変化による新奇性付加が,好意度(好感度)上昇に関わっているためだと考えられる.一方で安心感は,両条件において同じ呈示回数で上昇が見られ,背景情報の影響が及びにくいことが示された.
キーワード: 単純接触効果,背景情報,対人評価

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