編集委員会からの重要なお知らせ

-投稿・審査にかかわるすべての皆様へ-

1.はじめに

 2022年10月に開催された日本認知心理学会第20回大会において,編集委員会が企画した「機関誌『認知心理学研究』は生まれ変わります」というワークショップが行われました。この企画は,近年,投稿数が減少傾向にあるという深刻な現実を受け止めて,「どのようにすれば投稿数が増えて,認知心理学研究を盛り上げることができるか」を議論することを目的としたものでした。
 ワークショップの開催から早くも半年が過ぎてしまい,まずは,ワークショップでの議論も含めた内容について,情報共有が遅くなったことを伏してお詫び申し上げます。その上で,新年度を迎えたこの節目の時期に,今後を見据え建設的な議論の種になることを期待しつつ,改めて「何が生まれ変わったのか(=何が改善・改革されたのか)」について情報を共有できればと思っております。
 なお,上記ワークショップの内容については,企画趣旨および話題提供で使用されたスライドも含めて,こちらのページをご覧ください。

編集委員長 北神慎司(名古屋大学)

2.最新の投稿・査読状況について

 過去(2003年~2021年)の詳細な状況については,ワークショップのスライド(北神 「論文投稿・審査に関するこれまでとこれから」)を参照していただくとして,現時点(2023年4月1日)での今年を含むここ5年間の状況は,以下の通りです。
 投稿数自体が少ない上に,編集委員会というバイアスのかかった見方ではあるかもしれませんが,新体制となった2021年(正確には2021年度)を境目に「採択率が上がっている」こと,2023年に入ってこのままの投稿数が維持されれば「投稿数の推移が上向きに転じる」可能性があることは,ポジティブな材料と言えるかもしれません。

表1  2019年~2023年の投稿・査読状況

投稿採択数リジェクト数取り下げ数審査中採択率リジェクト率取り下げ率
201916583031%50%19%
20208260025%75%0%
20218521063%25%13%
20228421157%29%14%
20234N/AN/AN/A4N/AN/AN/A
※2022年は査読中の1本を除いた上での率

 また,採択・リジェクト・取り下げという最終結果までに要する日数について,昨年まで4年間の状況は以下の通りです。
 せめてワークショップに参加された方々には,「認知心理学研究の査読は遅い」ということは風評のようなものであるということが伝わっているとよいのですが,表2に示すとおり,採択にせよ,リジェクトにせよ,ここ数年の傾向を控えめに見たとしても,「決して査読が遅いわけではない」ということが言えるかと思います。

表2  2019年~2022年の最終査読結果に要する日数の平均

採択リジェクト取り下げ
日数日数日数
20195125870356
20202946770N/A
202151472128160
202241502691170

3.何が生まれ変わったのか?

 ここからが本題で,認知心理学研究の投稿・査読に関して,「何が生まれ変わったのか」,つまり,改革と呼べるほど大きなことではないかもしれませんが,何をどのように見直し,改善したのかについて説明したいと思います。

3.1.査読ポリシーの策定

 査読ポリシーの大方針として,「論文の評価は読者に委ねる」ということを定めました。つまり,「どのようにすれば論文を採択に導くことができるか」という視点で査読を行うという方針を,査読にかかわるすべての人の間で共有することとしました。
 投稿された論文に対して,まず編集委員会の中から担当編集委員を決めて,その委員が2名の査読者を選定します。そして,査読者は上記のような視点で査読を行い,担当編集委員も同じ視点に立って査読結果をまとめ,必要があれば,査読者の報告に対して積極的に介入することとしました。さらには,査読者および担当編集委員の報告に対して,委員長・副委員長・事務局で構成される「幹事会」のメンバーも同じ視点でそれらの報告を吟味し,必要があれば,積極的な介入を行うこととしました。
 もちろん,むやみやたらに介入を行うということではなく,査読結果や報告を尊重することを大前提として,査読ポリシーが遵守されているかどうかということに対する責任をしっかりと担うことが肝要であると考えています。

3.2.査読ポリシーの基本方針と留意点の明示

 上記の査読ポリシーの大方針のもとに,以下のように,具体的な査読の基本方針と留意点を明示することとしました。これらの方針および留意点の明確化に至るまでのプロセスは,ワークショップのスライド(森田「今後の査読の基本方針」)をご参照ください。

基本方針
(1)独自性,貢献可能性,有用性のいずれかを見つけ出す。
論文の独自性,認知心理学の発展への貢献可能性,会員にとって有用な情報を見つけ,その部分を積極的に評価してください。
(2)採択可能レベルに近づけるためのコメントをする。
現状では採択と判定できない問題を有する論文であっても,独自性、貢献可能性、有用性があるならば,それらが発揮されるよう建設的なコメントや改稿案を提示してください。
(3)完璧を求めない。
「完璧な論文」「欠点のない論文」のみが採択されるわけではありません。多少の欠点があっても,独自性,貢献可能性,有用性のある論文が不採択にならないことのほうを重視してください。
(4)不採択もやむを得ないことはある。
とはいえ、本誌の質を落とす不適切な審査を求めているわけではありません。独自性、貢献可能性、有用性のいずれも見いだせない論文、または本質的な問題があり改稿を行っても採択が難しいと判断される論文については、不採択はやむを得ません。

著者へのコメントについての留意点
(1)初回査読時に、問題点を可能な限りすべて指摘してください。再査読時に、初回査読時にはなかった新しい問題点を指摘する場合には、可能な限りその理由(改稿によって新たに生じた問題であるなど)を記載してください。
(2)実験や調査等、データ収集の追加を要求するときには、現状の記載内容で主張できることの価値を評価し、追加が採択の前提要件なのか、または論文の説得力を上げるために望ましい条項なのかを明示してください。

3.3.投稿者にかかわる査読プロセスの見直し

 投稿者・査読者からの意見あるいは編集委員会での議論などを参考にして,これまでの査読プロセスを見直し,以下のように,各規程の改定等を行いました。

3.3.1.初回改稿期間の延長

初回の改稿期間をこれまでの3週間から4週間に延長しました(審査手順規程 第7条)。

3.3.2.ページ数の上限撤廃

これまではページ数(刷り上がり分量)の上限を設定していましたが,その上限を撤廃することとしました(執筆・投稿規程 第5条)。ただし,規程上,目安としては10ページ程度としています。

3.3.3.査読手数料および掲載料の減額・無料化

査読プロセスの結果として,論文の掲載が決定した場合,投稿者の負担を軽減するために,以下のように,査読手数料および1ページあたりの掲載料を減額および無料化しました(執筆・投稿規程 第16条)。

3.4.編集委員会にかかわる査読プロセスの見直し

3.4.1.査読者審議の期間の短縮化(決定の主体の変更)

これまで担当編集委員によって選定された2名の査読者の審議は編集委員会を主体としていましたが,期間の短縮化を図るために,決定の主体を幹事会に変更しました(審査手順規程 第4条)。

3.4.2.採否判断の期間の短縮化

最終的な査読結果つまり採否判断の期間をこれまでの1週間から3日間に短縮するとともに,その決定の主体を幹事会に変更しました(審査手順規程 第10条,第11条,第12条)。

3.4.3.担当編集委員および幹事会の積極的な介入

「3.1.査読ポリシーの策定」でも触れていますが,査読結果やその報告に対して,担当編集委員および幹事会が積極的に介入することができるようにしました。具体的には,査読結果が分かれた場合に,査読ポリシーに基づき,できるだけ査読を継続する方向へ促したり,2名の査読者の報告の中に相反するコメントがあった場合にコメントを適切に整理するなどして対処したり,あるいは,査読ポリシーや基本方針に適合しない査読結果が報告された場合にそれを差し戻したりするなどを,積極的な介入の例として想定しています。

3.5.その他

3.5.1.査読者報奨金の導入

初回の査読において,3週間以内に査読結果が報告された場合,5,000円相当の報奨金(Amazonギフトカード)を授与することとしました。

3.5.2.「講演論文」の新設

これまで学会の公開シンポジウムのまとめは会報に掲載されていましたが,その他,学会でのシンポジウムやワークショップ等が開催された後,企画者からの希望によって,もしくは,編集委員会から企画者への依頼によって,その内容を論文化して,「講演論文」として掲載するができることとしました。すでに公刊されている講演論文は,以下の通りです。

第19回大会公募シンポジウム
伊藤 友一・松本 昇・小林 正法・西山 慧・三好 清文・村山 航・川口 潤 (2022). エピソード科学:記憶研究の新たな視点  認知心理学研究, 20 (1), 43-56.

第19回大会準備委員会企画シンポジウム
川島 朋也・澁澤 柊花・林 正道・池田 尊司・田中 悟志 (2023) 脳刺激研究の現在:認知心理学との接点 認知心理学研究, 20 (2), 91-101.

4.今後の課題

 ここまで,「何が生まれ変わったのか」,つまり,何をどのように見直し,改善したのかについて説明してきました。しかし,編集委員会としてこれで十分だとはまったく考えておりません。たとえば,ワークショップでも取り上げたように,内容として速報性のあるもの,卒論・修論をまとめたものや,大会発表をまとめたものを想定した「ショートレポート(ショートレター)」の新設や,J-STAGEにおける早期公開の導入など,継続して議論を行っているものも多々あります。
 さらに,ワークショップの質疑応答の時間でいただいたさまざまなご意見やご要望(一覧はをご参照ください)についても,それらの実現に向けて編集委員会で議論していきたいと考えています。特に,論文の投稿をお考えの皆さまには,ぜひ,『認知心理学研究』を投稿先の選択肢に入れていただければ幸いです。最後に,『認知心理学研究』および日本認知心理学会の更なる発展に向けて,引き続き,皆さまのお力添えをよろしくお願いいたします。

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