『認知心理学研究』第13巻 第2号

『認知心理学研究』 第13巻 第2号(平成28年2月)

目次

  • 原著/記憶課題における学習容易性判断に関する手がかり利用仮説の検討(山根嵩史・中條和光)

  • 原著/能動的随伴性課題における履歴提示が反応確率効果におよぼす影響(久保田貴之・漁田武雄)

  • 原著/音韻的親近性と仲間の数が日本語母語者による同音異義語の語彙判断に与える影響(水野りか・松井孝雄)

  • 原著/外的刺激によるマインドワンダリング生起への気づき(大塚 翔・関口貴裕)

  • 優秀発表賞/第13回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ(箱田裕司)

  • 会報
    日本認知心理学会2015年度第2回理事会報告
    第14回大会ご案内
    公開シンポジウムの報告
    受領図書
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    日本認知心理学会選挙細則
    「認知心理学研究」諸規程

Abstract

原著/記憶課題における学習容易性判断に関する手がかり利用仮説の検討

山根嵩史・中條和光(広島大学大学院教育学研究科)

 本研究では,記憶課題におけるメタ認知的モニタリングの一つである学習容易性判断(ease of learning judgment)のメカニズムを検討した.EOLには,記銘材料のイメージ価や使用頻度などの情報が判断に利用されると仮定した.EOLの際に意味記憶内のそれらの情報が検索されるならば,判断に伴って項目の偶発的な精緻化が生じることが予測される.そこで,偶発学習事態において,EOLと浅い処理を伴う方向付け課題との記憶成績の差を指標として,EOLのメカニズムを検討した(実験1, 2).その結果,EOLのほうが浅い処理よりも記憶成績が高く,偶発的な精緻化が生じていることが確認された(実験1, 2).実験3では,それらの結果が,EOLによって生じたものであり,記銘意図によるものでないことを確かめるために,意図学習の事態でもEOLによる同様の符号化の促進が起こることを示した.以上の結果より,従来,学習判断(JOL)に関して提唱されてきたメタ認知的モニタリングに関する手がかり利用アプローチが,EOLにも適用できることが明らかとなった.
キーワード:メタ記憶,モニタリング,手がかり利用仮説,学習容易性判断,既学習判断

原著/能動的随伴性課題における履歴提示が反応確率効果におよぼす影響

久保田貴之・漁田武雄(静岡大学情報学部)

 本研究は,実験参加者の反応とそれに付随する結果の履歴提示が能動的随伴性課題における反応確率効果を規定するか調べた.二つの実験において,実験参加者(n=132)は,コンピューターの画面に1人ずつ提示された50人の患者に対して実験的な薬を投与するか否かを決め,セッションの最後に薬の効果を評定した.われわれは,両方の実験において反応と結果の履歴提示の有無を操作した.また,実験参加者が経験する結果密度を,高い結果密度(実験1)と低い結果密度(実験2)として操作した.回帰分析と偏相関分析をデータに対して実施した.高い結果密度の条件において,履歴提示は,履歴提示がない場合に比べてより高い反応確率効果を生じさせた.低い結果密度の条件は,履歴提示がない場合に機能的な結果を引き起こさなかったのに対して,履歴提示をすることで実際に経験した随伴性に基づく正確な随伴性判断を生じさせた.偏相関分析は,投与頻度を薬の有効性評価と関連づける単回帰直線が反応確率効果だけでなく実際の随伴性を反映することを明確にした.
キーワード:反応確率効果, 随伴性判断,履歴提示

原著/音韻的親近性と仲間の数が日本語母語者による同音異義語の語彙判断に与える影響

水野りか・松井孝雄(中部大学)

 同音異義語の語彙判断時間は通常,非同音異義語より長く,この現象は同音異義語効果と呼ばれる.しかしながら,複数の仲間を持つ日本語の同音異義語の語彙判断時間に関する実験結果は,一貫していなかった.筆者らはこの原因が同音異義語の音韻情報の親近性にあるのではないかと考えた.そして音韻的親近性を統制して日本語の仲間の多い同音異義語,仲間が一つしかない同音異義語の語彙判断時間を測定した.その結果,いずれの場合も同音異義語効果が生じたが,その効果は仲間の少ない場合のほうが小さかった.そしてさらなる分析の結果,仲間が多い同音異義語では,英語の同音異義語の知見とは異なり,呈示された同音異義語が最も出現頻度の高い仲間の場合でも同音異義語効果が生じることが明らかとなった.これらの結果は,日本語母語者の同音異義語の語彙判断時間には音韻的親近性と仲間の数の双方が影響すること,そして,仲間が多い同音異義語では出現頻度に関わらず複数の仲間が活性化されるために語彙判断が遅延することを示唆している.
キーワード:同音異義語,語彙判断時間,日本語母語者,音韻的親近性,仲間の数

原著/外的刺激によるマインドワンダリング生起への気づき

大塚 翔(東京学芸大学大学院教育学研究科)
関口貴裕(東京学芸大学教育学部)

 本研究では,外的刺激をきっかけにマインドワンダリング(課題無関連思考)への気づきが生じるかを明らかにすることを試みた.実験1では,参加者に反応に対する注意の持続課題(go/no-go課題)中,マインドワンダリングの生起に気づいたときにキー押しで報告させた.また,3種類のキュー条件試行を課題中ランダムに実施した:閾上キュー試行では赤丸のキューを300ms,閾下キュー試行では白丸のキューを10ms注視点画面で呈示し,キューなし試行(統制条件)ではキューを呈示しなかった.実験の結果,閾上・閾下キュー試行後に,キューなし試行後に比べて,マインドワンダリング報告数が多くなっていた.しかしこの結果は,キューが課題無関連思考それ自体を促したことを反映した可能性がある.そこで実験2で,各キュー条件試行後のマインドワンダリング生起をプローブ画面で捕捉した結果,キュー条件間でマインドワンダリング生起数は変わらなかった.以上の結果は,外的刺激が,その呈示が意識に上ることとは無関係にマインドワンダリングの気づきを促すことを意味している.
キーワード:課題無関連思考,メタ意識,閾下刺激

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