『認知心理学研究』第7巻 第1号

『認知心理学研究』第7巻 第1号(平成21年8月)

目次

  • 2言語併用者による日中同形語の意味処理における第2言語熟達度の影響(大井 京・齋藤洋典)

  • トップダウンの注意が前景と背景の変化検出に及ぼす影響(嘉幡貴至・松本絵理子)

  • 解離特性と抑制方略が記憶の意図的抑制に与える影響(堀田千絵・川口 潤)

  • 相対的方向判断における空間記憶の方向特異性と身体の向きの効果(大藤弘典・菱谷晋介)

  • 新たな知識の習得における分散効果の頑健性(田中孝治・加藤 隆)

  • <資料> 項目特定処理と関係処理がリスト内手がかり効果に及ぼす影響(山田陽平)

  • <資料> 具体文および抽象文を用いた行為・文一致効果の実験的検証(平 知宏・中本敬子・木戸口英樹・木村洋太・常深浩平・楠見 孝)

  • <資料> 自閉症スペクトラム指数とワーキングメモリ容量の関係:

    定型発達の成人における自閉性障害傾向(土田幸男・室橋春光)

  • <会報>

    第3期日本認知心理学会

    日本認知心理学会第7回総会報告

    日本認知心理学会 会則

    日本認知心理学会 選挙細則

    「認知心理学研究」 編集規程

    「認知心理学研究」 執筆・投稿規程

    「認知心理学研究」 審査手順規程

    「認知心理学研究」 投稿倫理規程

 

 

Abstract

2言語併用者による日中同形語の意味処理における第2言語熟達度の影響

大井 京・齋藤洋典

本研究は,非均衡型の2言語併用者が,第2言語(second language: L2)の意味処理を求められた際に,第1言語(first language: L1)の意味処理を抑制し得るか否かを,語釈判断課題を用いて検討した.L2の熟達度が異なる2群(high vs. low: H/L)の2言語併用者と,日本語を第1言語とする1群の単言語使用者(Japanese: J)が,視覚呈示された日中同形語と語釈の対を「日本語として知っているか」否かの判断を遂行した.語と語釈のセットは,日本語と中国語の辞書の片方か,あるいは両方に記載されているか否かに応じて,日中で「共通」,「日本語固有」,あるいは「中国語固有」の3種類に分類された.共通と日本語固有語釈に対する既知反応(正答)率では,3群間に差が認められなかった.これに対して,中国語固有語釈に対する既知反応(誤答)率では,L群はJ群よりも高い値を示し,H群はJ群よりも高い値を示す有意な傾向が認められた.これらの結果は,L2の意味処理を要求されると,H群は,L1の意味処理をほぼ抑制し得るのに対して,L群は,L1の意味処理を抑制し得ないことを示す.このことは,非均衡型の2言語併用者の意味処理が,L2の熟達度の上昇に応じて,言語非選択的から選択的に変化すると結論づけられる.

 

トップダウンの注意が前景と背景の変化検出に及ぼす影響

嘉幡貴至・松本絵理子

前景-背景分割を伴う視覚刺激を用いた変化検出課題では前景の変化は容易に検出されるが,一方で背景の変化はしばしば見落とされる.それゆえ,注意は選択的に前景に割り当てられると考えられている.本研究では,前景と背景の変化確率の違いや教示によって生成されるトップダウンの注意の役割を検討した.参加者は教示(教示なし,分割注意)と前景と背景の変化率(1対1, 1対5)を操作した変化検出課題を行った.その結果,背景変化率が高く,前景変化率が低い場合と,参加者が意識的に注意を前景と背景に配分した場合に,前景と背景への注意配分は調整された.本研究の結果は,前景と背景への注意の特性がトップダウンの注意によって変化することを示唆する.

 

解離特性と抑制方略が記憶の意図的抑制に与える影響

堀田千絵・川口 潤

本研究は,高解離傾向者が特定の記憶を抑制することが困難であるかどうかを修正Think/No-Think課題を使って検討することを目的とした.まず,解離経験尺度によって分けられた,13名の高解離傾向者と17名の低解離傾向者が,無関連な単語対のリストを学習した.次に,手がかりに対応する語を考えないようにする(No-Think 条件)か,再生する(Think条件)セッションを行った(それぞれ0回,4回,または12回ずつ).最後に,手がかりに対応する語の再生を求めた.その結果,解離傾向にかかわらず,代替思考方略使用者は12回No-Think条件の単語対の再生成績が,ベースライン条件の再生成績よりも低かった.さらに,解離傾向得点が高くなればなるほど,代替思考方略を使用する頻度は減るが,No-Think条件で“頭を真っ白にする”ことが分かった.これらの結果は,高解離傾向者もNo-Think試行中に考えないようにするために何か別のことを考えることによって(代替思考方略の使用),特定の記憶を忘却することができるが,多くの高解離傾向者は代替思考方略が使用できないことを示唆している.

 

相対的方向判断における空間記憶の方向特異性と身体の向きの効果

大藤弘典・菱谷晋介

本研究では,空間記憶の方向特異性と身体の向きが空間判断に及ぼす効果について検討した.実験1では,27名の大学生に対し,大学構内において相対的方向判断を行うことが求められた.彼らは,構内のある地点にいて,特定の方向を向いている場面をイメージし,その向きを基準として目に見えないターゲットの方向判断を行うように伝えられた.実験2では,28名の大学生に対し,室内の経路を対象として判断を行うことが求められた.両実験の結果から,イメージされる方向が長期記憶に貯蔵されている選好的な空間記憶の向きおよび身体の向きの両者と一致する場合に最も判断が速く,いずれか一方とでも向きが不一致だと判断が遅くなることが示された.

 

新たな知識の習得における分散効果の頑健性

田中孝治・加藤 隆

本研究では,新たな知識の習得という実社会の学習に即した課題において,「再学習の機会を学習ではなくテストに用いる」,「学習時に意識的なメタ記憶判断を行う」,「再学習の時間間隔をあける」という三つの学習方略の効果を検証した.時間間隔をあけるという要因については他の学習方略の中に組み込む形で操作した.実験1a・1bでは,2回の学習フェーズをともに学習に用いる統制条件との比較において,再学習に替えてテストを行うことの効果および学習時に意識的にメタ記憶判断を行うことの効果は認められなかった.しかし,2回の学習フェーズの間隔を短くするときよりも長くするときのほうが成績が良いという分散効果が一貫して見られた.さらに実験2では,こうした分散効果が学習フェーズの間で行う挿入課題の質と難易度に影響を受けないことが示された.本研究において示された分散効果の頑健性と生態学的妥当性は,分散学習がさらなる加算的な効果をもたらすものと期待できることから,分散学習をあらゆる学習方略とともに取り入れることを推奨するものといえる.

 

<資料>項目特定処理と関係処理がリスト内手がかり効果に及ぼす影響

山田陽平

記憶内の情報の一部を検索手がかりとして与えられると,それ以外の情報が思い出しにくくなる.この現象は,リスト内手がかり効果と呼ばれている.本研究では,リスト内手がかり効果が検索抑制によって生じているのかを調べるために,符号化方略を操作した.実験参加者は5カテゴリ,6項目ずつの計30項目からなる学習リストを記銘し,連続して呈示される二つの項目の相違点か類似点のいずれかを判断した.その後,手がかり群は連続呈示された2項目のうちの一方を残りの項目(非手がかり項目)を再生するための手がかりとして与えられ,それらを読み上げた.統制群は4桁の数字を呈示され,それらを読み上げた.その後,手がかり群は非手がかり項目だけを再生し,統制群はすべての項目を再生した.その結果,相違点判断群では,非手がかり項目の再生率は統制群より手がかり群のほうが低く,リスト内手がかり効果が認められた.一方,類似点判断群では,統制群と手がかり群の間に差はなく,リスト内手がかり効果が認められなかった.これらの結果は,リスト内手がかり効果の検索抑制説を支持するものであるといえる.

 

<資料> 具体文および抽象文を用いた行為・文一致効果の実験的検証

平 知宏・中本敬子・木戸口英樹・木村洋太・常深浩平・楠見 孝

本研究では,行為文理解時における空間認知について検討を行うことを目的とした.本研究では聴覚的に呈示された文の意味判断課題と視覚刺激同定課題の二つを用いた.実験参加者は,上,下,水平方向のイメージを含む行為文を聞き,直後に参加者の視野上方向ないし下方向に出現する刺激が何であるかを同定するよう求められた.刺激同定に要する時間を従属変数とし,行為文の理解が実際の行動に与える影響を調べた.研究では具体文(例:選手がバーベルを持ち上げた)と抽象文(例:生徒が先生を尊敬した)の異なる2種類の文を用いた.具体文では,行為-文一致効果が見られ,行為文の理解はその文のイメージが意味する方向に出現する刺激の同定を促進させることを示した.しかし抽象文では,刺激同定課題に対し行為文を理解したことによる影響は見られなかった.

 

<資料> 自閉症スペクトラム指数とワーキングメモリ容量の関係:
定型発達の成人における自閉性障害傾向

土田幸男・室橋春光

本研究は自閉症スペクトラム指数(AQ)とワーキングメモリの各コンポーネントが関わる記憶容量との関係を検討した.自閉症スペクトラムとは,自閉性障害の症状は社会的・コミュニケーション障害の連続体上にあり,アスペルガー症候群は定型発達者と自閉性障害者の中間に位置するという仮説である.自閉性障害者においては音韻的ワーキングメモリには問題が見られないが,視空間的ワーキングメモリには問題が見られるという報告がある.高い自閉性障害傾向を持つ定型発達の成人のワーキングメモリ容量においても,同様の傾向が見られる可能性がある.そこで本研究では定型発達の成人において音韻的ワーキングメモリ容量,視空間ワーキングメモリ容量,そして中央実行系が関わるリーディングスパンテストにより査定される実行系ワーキングメモリ容量とAQの関係を検討した.その結果,AQ高群では低群よりも視空間ワーキングメモリ容量が小さかった.全参加者による相関係数でも,AQと視空間ワーキングメモリ容量の間には負の相関が認められた.しかし,音韻,実行系ワーキングメモリ容量とAQの間には関係が見られなかった.これらの結果は,自閉性障害者で見られる認知特性が,定型発達の成人の自閉性障害傾向でも同様に関わっていることを示唆している.

 

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