『認知心理学研究』第5巻 第1号

『認知心理学研究』第5巻 第1号(平成19年8月)

  • 表音文字処理における形態・音韻コードへの依存度の日本語母語者と英語母語者の相違(水野りか・松井孝雄・Francis S. Bellezza)
  • 心因性の身体反応に関する子どもの理解と先行経験の役割(外山紀子)
  • 検索誘導性忘却における反応基準と回想経験の役割:
    Remember/Know手続きを用いた検討(丹藤克也)
  • 統合失調型パーソナリティと視聴覚に同時提示した運動情報統合の関係:
    動的な腹話術効果を用いた検討(浅井智久・丹野義彦)
  • 複数対象の運動方向変化検出課題における注意の効果(駒田悠一・篠原一光・三浦利章)
  • 表情の表出過程および形態学的変化が感情認識に及ぼす影響:
    次元的観点に基づいた表情による検討(藤村友美・鈴木直人)
  • <資料> 眼の喜び表情の決定要因:眼は口ほどにものを言うか?(上田彩子)
  • <資料> 自伝想起課題におけるエピソードの再認処理が気分一致記憶に及ぼす影響(野内 類・兵藤宗吉)
  • <会報>
    日本認知心理学会第5回総会報告
    日本認知心理学会 会則
    日本認知心理学会 選挙細則
    「認知心理学研究」 編集規程
    「認知心理学研究」 執筆・投稿規程
    「認知心理学研究」 審査手順規程
    「認知心理学研究」 投稿倫理規程

 

Abstract

表音文字処理における形態・音韻コードへの依存度の日本語母語者と英語母語者の相違

水野りか・松井孝雄

本研究は,表音文字処理における形態・音韻コードへの依存度の英語母語者と日本語母語者の違いを調べることを目的とした.実験1では,Posner, Boies, Eichelman, & Taylor(1969)の文字マッチング実験を手続き上の諸問題を解決した上で日米で追試した.その結果,彼らの実験結果とは異なり形態的一致のRTはISIとともに増大せず,日本では形態的一致のRTが音韻的一致のRTより短いが米国では両RTが等しく,日本語母語者は形態的一致の判断に形態コードを用いるが英語母語者は形態コードの代わりに音韻コードを用いる可能性が示された.実験2ではこの可能性を確認するために,音韻コードの利用を抑制する変則マッチング実験を行った.その結果,米国では実験2の形態的一致のRTは実験1より短いが,日本ではそうした傾向が全くないことが見いだされ,表音文字処理における日本語母語者の形態コードへの依存度の高さと英語母語者の音韻コードへの依存度の高さが確認された.

 

心因性の身体反応に関する子どもの理解と先行経験の役割

外山紀子

小学校1・2年生38名とその母親を対象として,心的状態に由来する身体反応に関する子どもの理解と,心因性の身体的不調を過去に経験したことの関連性を検討した.小学校1・2年生は,「緊張してお腹が痛くなった」のように心的状態が身体反応を生じさせる可能性があることを,十分には気づいていなかった.心因性の身体反応に関する理解は,心因性の身体反応を経験したことがあるかどうかに関する子どもの自己報告とは関連したものの,母親の報告とは関連しなかった.また,心因性の身体反応を経験したことがあると自己報告した子どもは,心因性の身体反応がなぜ生じるかについて,生気論的・機械論的因果性に依拠した説明を与えることが多かった.母親は,子どもが経験した身体的不調の原因を心的状態にあると考えていても,子どもは身体的要因から生じたとみなしている場合が多かった.以上の結果は,小学校1・2年生が,身体的不調の原因として心的要因を仮定するだけの認知的枠組みを有していないことを示唆していた.

 

検索誘導性忘却における反応基準と回想経験の役割:
Remember/Know手続きを用いた検討

丹藤克也

検索誘導性忘却の研究から,検索行為そのものが,関連情報の忘却原因となりうることが示されている.本研究では3つの実験により,反応基準と回想過程が検索誘導性忘却において果たす役割を検討した.最終テストにおいてカテゴリ名と語幹を手がかりとした再生を求めた.実験1aでは反応基準に関する教示は何も与えず,実験1bでは学習項目だという強い確信がある場合にだけ回答するよう求める教示を与えた.その結果,厳しい反応基準を求める教示を与えた場合にのみ抑制効果が見られた.同時に,回想と熟知性の寄与を測定するために再生した項目に対してRemember/Know判断を求めた.抑制はRemember判断を低下させたが,Know判断には影響しなかった(実験2).これらの結果から,抑制メカニズムは積極的な回想過程に影響している可能性が示唆される.

 

統合失調型パーソナリティと視聴覚に同時提示した運動情報統合の関係:
動的な腹話術効果を用いた検討

浅井智久・丹野義彦

本研究は統合失調型と視聴覚の情報統合の関係を検討した.統合失調型とは統合失調症の前駆段階を示すパーソナリティであると考えられている.変性脳機能間連絡仮説は,統合失調症の症状は,脳機能間の適切な情報統合ができない結果であると説明する.統合失調型でも同様に,この異なった機能間の情報統合に何らかの問題が見られる可能性がある.異なったモダリティ間の情報統合を検討できる‘動的な腹話術効果’を用いて検討した結果,統合失調型の傾向が高い人ほど,視覚刺激の影響を受けないことが示された.また抑うつや不安といった特性は,この現象とは関連がないことが分かった.よって,本研究の結果は,情報統合の困難さと統合失調型が関係していることを示唆したと言える.

 

複数対象の運動方向変化検出課題における注意の効果

駒田悠一・篠原一光・三浦利章

本研究は多数の運動対象が存在するときに,その運動変化検出に対する注意の効果を測定したものである.被験者は手がかりとして指示された対象に注意を配分しながら,方向変化検出課題を行った.本研究の目的は,運動方向の変化検出を行うために複数の対象へ注意を向けるときに,注意を向けることによる利得が注意対象の数によってどのように変化するかを検討することである.結果は,方向変化検出の成績は注意を向けた個数に反比例することを示し,これは複数の対象の運動に注意を向けることは困難であることを示唆する.この結果をもとに,運動方向変化の検出に対する注意の働きを考察した.

 

表情の表出過程および形態学的変化が感情認識に及ぼす影響:
次元的観点に基づいた表情による検討

藤村友美・鈴木直人

本研究では,表情からの感情認識における動きの影響を検討する.感情を表出した顔の動きには,2つの側面がある.中性顔から最大表出時の表情までの形態学的な変化と動的変化を含む時系列的情報である.60名の実験参加者は,3つのタイプの表情刺激を呈示された.動画は時系列的情報のみを含んでおり,静止画は最大表出時の表情で呈示された.切り替え画は,中性顔と最大表出時の表情の静止画で構成されていた.これらの表情刺激は,次元的観点に基づいた8感情(いきいきした,うれしい,のんびりした,驚いた,眠い,恐ろしい,怒った,悲しい)で構成されていた.実験参加者は,各表情刺激をAffect Grid(Russell, Weiss, & Mendelsohn, 1989),強制選択法,リッカート法(Likert, 1932)の3つの評価方法で評価した.結果より,低活性表情(眠い,悲しい,のんびりした)は,時系列的情報によって認識されやすくなる一方,高活性表情(驚いた,怒った,うれしい)の認識は,最大表出時の呈示時間によって影響を受けることが示された.

 

<資料> 眼の喜び表情の決定要因:眼は口ほどにものを言うか?

上田彩子

他者の情動を認知する能力は,正常な社会的相互関係を保つうえで重要である.特に,眼の複雑な表情および心的状態を理解する能力は,“心の理論”の指標となることが知られている.本研究では,眼の表情認知の一端を明らかにすることを目的に,眼の“喜び”情動表出の決定要因について検討を行った.実験刺激には,異なる表情間で部分的に入れ替えを施した,合成顔画像を用いた(例:中立情動を表出した眼の領域と,喜びを表出した残りの顔領域を合成した顔画像).その結果,眼から快-不快印象を判断する際,顔全体の領域からの情報の関与が認められた.そのため,眼から表情を読み取る際,眼を注視しても,顔の全体的処理の影響を受ける可能性が示唆された.また,眼の喜び表情表出に最も関与するのは口を含む領域の変化であった.

 

<資料> 自伝想起課題におけるエピソードの再認処理が気分一致記憶に及ぼす影響

野内 類・兵藤宗吉

気分一致記憶とは,気分と一致した感情価をもつ刺激語の記憶成績が良くなる現象を指す.本研究は,自伝想起課題と修正自伝想起課題を用いて気分一致記憶を検討した.大学生90名をランダムに実験条件に割り振った(ポジティブ,ネガティブ,ニュートラル).ポジティブとネガティブ気分群は,気分誘導のために音楽を聴取した.各群の被験者には4秒間隔で刺激が呈示された.刺激は快語30語と不快語30語の形容詞を使用した.自伝想起課題の参加者は刺激語にあてはまるエピソードを生成し,それが自分の経験にあるかどうかの再認を行った.修正自伝想起課題の参加者は,刺激語から自分自身のエピソードを生成するのが簡単か難しいかどうかを判断した.実験の結果,自伝想起課題の再生率においてポジティブ気分でもネガティブ気分でも気分一致記憶が見られ,修正自伝想起課題では気分一致記憶が見られなかった.このことから,再認処理もしくは生成・再認処理が気分一致記憶の生起に重要であると考えることができる.

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