『認知心理学研究』第1巻 第1号

『認知心理学研究』第1巻 第1号(平成16年5月)

目次

  • <日本認知心理学会会長挨拶>

    「認知心理学研究」創刊号の発行にあたって

  • 広告の商品属性と商品名典型性が感性判断と購買欲に及ぼす効果(松田 憲・楠見 孝・鈴木和将)

  • ドルードル課題を用いた再認と再生の記憶高進(林 美都子・宇根優子)

  • 感情的発話における音楽性:基本周波数を用いた和音性の定量化について(藤澤隆史・高見和彰・Norman D. Cook)

  • 幼児期から児童期にかけての時間処理能力の発達: 生活時間構造の階層性の発達との関連(丸山真名美)

  • 図形の心理物理的特徴と意味的特徴の対応関係(山口由衣・王 晋民・椎名 健)

  • 幼児における均等配分に関する認知発達: 配分先が示されない場合の教示の効果(山名裕子)

  • 呼吸と体肢運動の意図的協調:ダイナミカル・システム・アプローチからの検討(高瀬弘樹・三嶋博之・春木 豊)

  • <資料> 考古学的熟達者の土器注視パターン(時津裕子)

  • <資料> 確率判断における認知バイアスの検討(足立邦子)

  • <資料> 顔の物理的特徴,相貌印象,再認記憶の関係(小松佐穂子・箱田裕司・尾田政臣)

  • <優秀発表賞>第1回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果

  • <会員の広場> 一認知心理学者の思い入れ|論文募集案内

  • <会報>
    日本認知心理学会第1回大会報告
    日本認知心理学会第1回総会報告
    2003年度予算
    2003年度事業計画
    日本認知心理学会安全心理学部会の設立
    日本認知心理学会設立趣意書
    日本認知心理学会会則
    日本認知心理学会組織ならびに2003年度役員
    日本認知心理学会優秀発表賞規程
    日本認知心理学会独創賞規程
    「認知心理学研究」 編集規程
    「認知心理学研究」 執筆投稿規程
    「認知心理学研究」 投稿倫理規程

 

 

Abstract

広告の商品属性と商品名典型性が感性判断と購買欲に及ぼす効果

松田 憲・楠見 孝・鈴木和将

本研究では,広告の「中心情報」を商品属性,「周辺情報」を商品名の典型性とし,情報探索や商品評価動機が強い高考慮商品カテゴリー,動機が比較的弱い低考慮商品カテゴリーにおいて,それらが商品に対する安心感,好意度,購買欲評定に与える影響を検討する.実験は,大学生30名の参加者に対し,学習フェイズ,再生課題,評定フェイズの順で行った.実験の結果,高考慮・低考慮,両カテゴリーで周辺情報と中心情報が商品評定に促進効果を与えていた.また,パス解析の結果より,いずれのカテゴリーでも,属性がすべての尺度に直接影響を与えているのに対し,商品名の典型性が直接影響を及ぼすのは安心感のみであり,好意度や購買欲への効果は安心感を経由した間接効果であることが示された.低考慮カテゴリーにおいて商品名の典型性の高低は属性による商品評定に影響を及ぼさず,両カテゴリーで,典型性が高い方の商品名再生数が多かった.

 

ドルードル課題を用いた再認と再生の記憶高進

林 美都子・宇根優子

本研究では,イメージ仮説(Erdelyi & Becker, 1974; Erdelyi & Stein, 1981)と代理検索回路(ARP)仮説(Kazen & Solis-Macias, 1999)に基づき,再認の記憶高進が生起するか否かを検討した.本研究では実験を4つ行い,1実験につき12人の被験者に参加してもらった.実験1と3ではラベルありドルードル,実験2と4ではラベルなしドルードル刺激を覚えてもらい,その後,実験1と2では再認テスト,実験3と4では再生テストを3回繰り返し実施した.両仮説が予測したとおり,実験1では再認記憶高進が生起することが確認され,実験2では生起しなかった.実験3でも,両仮説の予測どおりに再生記憶高進が生起した.イメージ仮説は実験4において再生記憶高進は生起すると予測したが,ARP仮説は生起しないと予測した.結果,実験4では再生記憶高進は生起せず,イメージ仮説よりARP 仮説が支持された.結論として,天井効果の心配のない状況で有意味な絵画刺激を用いれば,再認の記憶高進は再現性の高い現象であると思われる.また本研究の結果は,ARP仮説を支持するものであった.

 

感情的発話における音楽性:基本周波数を用いた和音性の定量化について

藤澤隆史・高見和彰・Norman D. Cook

感情的発話のピッチ曲線に見られる”音楽性”,特に和音性の定量的評価のために,2つの新たな手法を開発した.1つ目はピッチ曲線の中で用いられた主要なピッチを抽出するための手法で,ピッチ曲線を時系列にかかわらずピッチ軸上へと射影し,1次元の散布データに変換する.その後,正規分布の合成モデル(cluster)を用いて,評価にかかわる主要なピッチ群を特定した.2つ目は得られた主要ピッチ群から,和音性を定量化するための手法で,音楽知覚の2つの定量化モデル(不協和度,緊張度とモダリティ)を用いて,発話のピッチに含まれる和音性の定量化を行った.次にこれら2つの手法の評価を行うために感情的発話に関する実験を行った.まず感情的な発話を収集し,次に得られた発話データのピッチ成分のみの情報で新たな被験者に評価させた.上記の手法で,全ての発話文について各指標を算出し,感情状態の評定値との関連性を検討した結果,ポジティブな感情状態であると評価された発話群は,ネガティブな発話群に比較して,長調的な成分が含まれること,またネガティブな発話群には,短調的な成分,不協和的な成分が相対的に多く含まれていることが明らかになった.

 

幼児期から児童期にかけての時間処理能力の発達: 生活時間構造の階層性の発達との関連

丸山真名美

本研究の目的は,時間処理能力と生活時間構造の階層性の獲得の発達的変化を検討することであった.4歳から9歳の保育園児および小学生89名が実験に参加した.時間処理能力の発達を検討するために,カード配列課題を行った.生活時間構造の階層性を検討するために,子どもの生活時間スクリプトを調べた.その結果,(1)時間処理能力は,言語リスト処理能力,イメージ・システム処理能力の順に獲得されること,(2)年齢があがるほどより高次な階層性をもった生活時間構造をもつようになること,(3)時間処理能力の発達と生活時間構造の階層性の発達は,平行関係にあることが明らかになった.さらに,本研究において独自に作成された間隔時間比較課題が,時間処理能力を測定するのに有効であると考えられた.

 

図形の心理物理的特徴と意味的特徴の対応関係

山口由衣・王 晋民・椎名 健

本研究では,図形の心理物理的特徴と意味的特徴の対応関係を検討した.まず,4つの心理物理的特徴(曲線性,複雑性,規則性,開閉性)を組み合わせて,32個の図形を作成した.次に図形の印象をSD法により評価し,因子分析を適用して図形の意味的特徴を抽出した.心理物理的特徴と意味的特徴との間には密接な関係が認められた.曲線性と柔和性,規則性と安定性,および複雑性と活動性,意味的特徴に対する心理物理的特徴の関連の強度は「曲線性>複雑性>規則性・開閉性」と考えることができる.また,心理物理的特徴が同条件の図形どうしは印象が類似しやすく,特に複雑,不規則な図形において印象の共通性が強く現れた.本研究の結果は,異なる図形セットで大山・宮埜(1999)の見いだした形態の心理的属性(曲線性,規則性,複雑性)を支持した.

 

幼児における均等配分に関する認知発達:配分先が示されない場合の教示の効果

山名裕子

均等配分(同じように分けること)の実験では,従来の研究においては,人形にクッキーやアメを分けたり,皿に積木を分けたりする課題などで,人形や皿といった「配分先(いくつ分; 除数)」が明確にわかるものが用いられていた.本研究では皿に分けるといった明確な配分先をなくした場合の配分行動について,幼児を対象にした個別実験の結果からその分析を行った.また本実験では,例えば6個のものを2個ずつ3つに分ける場合に,「2つずつ分けて」という教示のみがなされる群(Quotient; Q群)と,「3つに分けて」という教示のみがなされる群(Divisor; D群)の2群を設定した.そして,そのような教示により,幼児の配分行動がどのように変化するのかに焦点をあてた.3歳から6歳までの幼児128名が,このいずれかの2群に割り当てられた.その結果,どの年齢においてもQ群の得点が高く,またD群では5歳から6歳にかけてのみ得点が上昇することが示された.これらの結果から分離量に関しては商を指示して配分をする方が早期に発達すること,また年少の幼児にとっては「○つに分けて」という理解が難しいということが示唆された.ここで示された結果は,年少幼児にとっては,等分除が,むしろ困難であるということを示したもので,就学後にわり算を学習する際,いくつ分かという除数を求める包含除の理解の困難さとは,矛盾する結果とも考えられる.

 

呼吸と体肢運動の意図的協調:ダイナミカル・システム・アプローチからの検討

高瀬弘樹・三嶋博之・春木 豊

呼吸は不随意的に制御されているだけでなく,日常的に,特に身体運動と関連する形で意図的に制御される様子を至る所で観察することができる.本論文では,呼吸運動と身体運動(手首-逆さ振り子運動)の協調について,その安定性と変動性を調べる2つの実験を行い,両運動間の協調を制約する法則性について検討した.実験1では,呼吸運動と逆さ振り子運動間に,2つの安定した協調モードの存在が示された.1つは,逆さ振り子を橈屈させるときに吸気し尺屈させるときに呼気するモード(RIUEモード)であり,もう1つは逆さ振り子を橈屈させるときに呼気し尺屈させるときに吸気するモード(UIREモード)であった.実験2では,呼吸運動と逆さ振り子運動をRIUEまたはUIRE モードで同期させるように求めた.このとき,逆さ振り子-呼吸運動の振動周波数,および逆さ振り子運動の固有周波数の操作を行った.その結果,意図的に行っていた協調モードから意図していない協調モードへと自発的にスイッチする相転移現象など,体肢間の運動協調の法則性を示すHKB方程式が予測する現象が観察された.これらの結果から,”呼吸-体肢運動”系は自己組織化系であり,したがって,呼吸や身体運動は単に中枢神経系によって一方向的に制御されているのではなく,ダイナミカルな制約を受けていると考察された.

 

<資料> 考古学的熟達者の土器注視パターン

時津裕子

本研究の目的は考古学的熟達者に特有の注視パターンについて,人工物の分類・同定をめぐる考古学的認知技能との関係性に着目して検討することであった.初級から上級レベルまでの考古学経験者9人と3人の非経験者が実験に参加した.被験者が考古学の土器および統制刺激としての植木鉢を観察している間の眼球運動を,アイカメラ(EMR-8)によって測定した.注視箇所と眼球運動パターンについて分散分析,主成分分析を用いて定量的分析を行ったところ,上級者グループに特別な注視パターンが認められた.分析の結果,考古学的熟達者は初級者や非経験者と比較して,1)物の輪郭部を注視する割合が高いこと,2)視線移動距離が長く停留持続時間が短い眼球運動パターンをもつこと,が明らかになった.この結果は考古学的熟達者が,物の形態的特徴とプロポーションに注意を向けていることを示すものと解釈した.

 

<資料> 確率判断における認知バイアスの検討

足立邦子

なぜ人は錯誤を含む確率判断をする場合があるのだろうか.本研究では確率の概念モデル(Hawkins & Kapadia, 1984)に対応するメンタルモデル(伊東,1995)を再検討し,確率判断における思考プロセスを探究する.そのため確率について専門的な知識をもたない学生や社会人を対象に,日常体験すると考えられる状況設定をした課題を提示し,生起確率とその判断理由を自由に記述してもらった.その結果,確率定義運用型・確率定義誤運用型・算術運用型・非算術運用型の4種類の判断タイプがあり,確率定義運用型以外のタイプの判断を行ったときに認知バイアスが生じることがわかった.人は確率判断におけるそれら4つの型の認知的枠組みをもつのではないかと考察された.それら判断型の使い分け方は,アロケーション・システム(allocation system)における機能のしかたと類似するものであることが考察された.

 

<資料> 顔の物理的特徴,相貌印象,再認記憶の関係

小松佐穂子・箱田裕司・尾田政臣

本研究は,顔の物理的特徴,相貌印象,再認記憶の因果関係について分析することを目的とした.顔画像を対象に,顔の物理的特徴の計測,SD法による印象評定実験,再認記憶実験を行い,その結果得られた特徴の計測値の主成分得点,因子得点,Aプライム値を用いて,相関分析,偏相関分析,分散分析を行った.分析の結果,再認記憶への影響の及ぼし方として,顔の物理的特徴が相貌印象を形成し,その印象が再認記憶に寄与するというルートと,物理的特徴が相貌印象に関係なく,直接再認記憶に寄与するというルートの2つのルートがあることが明らかになった.さらに,相貌印象では個性の印象が再認記憶に寄与すること,物理的特徴では口やあごに関する特徴が寄与することが明らかになった.

 

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