『認知心理学研究』第10巻 第2号

『認知心理学研究』第10巻 第2号(平成25年2月)

目次

  • 幼児の記憶に及ぼす有意味化の効果(吉野さやか,内田伸子)

  • 物体運動の速度変化とランダム性が能動的注視と選好形成に及ぼす効果(松田 憲,楠見 孝,小林剛史,一川 誠,興梠盛剛,黒川正弘)

  • 部分遮蔽刺激を用いたアモーダル補完時の単純接触効果の検討(富田瑛智,松下戦具,森川和則)

  • 脅威性の知覚が男性顔に対する魅力評定に与える影響(高橋 翠,遠藤利彦)

  • 比較と処理の水準が再生に及ぼす影響(伊藤真利子,綾部早穂)

  • 第10回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果(行場次朗)

  • <会報>

    日本認知心理学会2012年度第2回理事会報告

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Abstract

幼児の記憶に及ぼす有意味化の効果

吉野さやか・内田伸子

本研究では,幼児の記憶の発達過程における有意味化の効果について,4歳から6歳の幼児を対象として二つの実験を実施した.実験1では,年齢差における有意味化の効果の違い,および幼児の日常場面を描写した絵と物語は,有意味化を促し想起を促進するのかどうかを検討した.その結果,第一に,年齢に伴って想起成績が向上すること,第二に,項目間に関連のある絵を提示した場合および絵とともに物語を提示した場合に,場面の有意味化が促され,想起成績が向上することが示された.さらに,プロトコル分析の結果,5歳半過ぎから自発的に場面を有意味化して想起していることが示された.実験2では,項目が整合的に配置されていない場面を用い,5歳半以前の幼児に有意味化を促すことで想起成績が向上するのかどうかを検討した.その結果,有意味化するよう教示することで,場面全体を有意味化することは困難であるものの,5歳半過ぎの幼児と同等まで想起成績が向上することが示された.したがって,事象に対して有意味化しようと能動的に働きかけることが,想起の促進には重要であることが見いだされた.

 

物体運動の速度変化とランダム性が能動的注視と選好形成に及ぼす効果

松田 憲・楠見 孝・小林剛史・一川 誠・興梠盛剛・黒川正弘

本研究は,複雑かつ生物的な運動ほど注視され,刺激への好意度を上昇させるかを検討した.実験1Aは対象の運動の方向変化回数(1回,3回,7回)と変化タイミング(一定,ランダム),実験1Bでは実験1Aの要因に対象の加速度(加速,減速,加減速混合)を加えて,実験2(実験2Aは実験1と同様の自由観察であり,実験2Bは注視点を注視させた統制実験であった)ではアイトラッカーを用いて実際に参加者の眼球運動を観察し,それらが参加者の刺激評価に及ぼす影響を調べた.参加者には,運動する黒縁の円を8秒間呈示したあと,円の動きについて6尺度(面白さ,好意度,複雑性,生物性,関心度,印象度)を7段階で評定するよう求めた.実験の結果,物体運動の複雑性・生物性が能動的な注視を喚起させ,刺激への評価を上昇させた.また,刺激への視覚探査が見られ,対象物体の加速度により追い方や視線停滞数の違いが見られた.

 

部分遮蔽刺激を用いたアモーダル補完時の単純接触効果の検討

富田瑛智・松下戦具・森川和則

単純接触効果とは,繰り返し刺激に接触することでその刺激の評定値がポジティブに変化することである.先行研究では,高次認知処理過程の介入を想定したとき,単純接触効果は脳内で生成されたイメージの形状と一致する刺激に対しても生じることが示されつつある(Craver-Lemley & Bornstein, 2006; Yagi et al., 2009).しかし,高次認知機能の介入を想定しないとき,接触時に視覚的に入力された刺激の形状と脳内で生成されたイメージの形状のどちらに単純接触効果が強く現れるのか明らかではない.本研究では,アモーダル補完事態において,刺激の視覚的に入力された際の刺激形状と脳内で生成されたイメージ形状のどちらに強く単純接触効果が生じるのか検討した.アモーダル補完事態では視覚入力時の形状は断片的であるのに対して,脳内で生成されたイメージの形状は補完されて完全な形になる.実験では部分的に遮蔽された刺激と接触したあと,接触刺激と同一形状の刺激(アモーダル補完前の形状)と,アモーダル補完された後の刺激(アモーダル補完後の形状)のどちらに単純接触効果が強く現れるのか検討した.実験の結果,単純接触効果は接触した刺激と同一形状の刺激(アモーダル補完前の形状)に強く現れた.そのため,アモーダル補完事態では,脳内で生成されたイメージの形状よりも接触時に視覚的に入力された形状と一致する刺激に単純接触効果が強く現れることが示された.

 

脅威性の知覚が男性顔に対する魅力評定に与える影響

高橋 翠・遠藤利彦

顔の魅力に対する進化心理学的アプローチは,異性の容貌において繁殖に寄与する資質の手がかりがヒトに普遍的な魅力規定因であると仮定する.しかし,男性顔において「男らしさ」が知覚される容貌は優れた資質のシグナルであるが,女性は必ずしも魅力を知覚しない.本研究では,「男らしい」容貌から知覚される脅威性もまた,そうした容貌に対する魅力評価を抑制している可能性に着目した.男性顔(無表情・直視)に対する印象評価の多変量解析的検討(研究1),および表情(無表情・笑顔)と視線(直視・逸視)の異なる条件下での魅力評定(研究2)を通じて,評定者の性にかかわらず,脅威性(および脅威表情)の知覚が「男らしい」容貌に対する魅力評価を抑制している可能性が示唆された.ただし研究2では,男女で異なる結果として,女性評定者のみで脅威性が相対的に知覚されにくい場合に「男らしさ」の優れた資質のシグナルとしての側面が魅力として知覚されるようになる可能性も示唆された.

 

比較と処理の水準が再生に及ぼす影響

伊藤真利子・綾部早穂

記銘項目が実験者によって割り当てられる場合よりも,実験参加者自身により選択される場合のほうが記憶保持は優れる.この自己選択効果の生起には,選択肢項目間の相対比較が必要である可能性が示唆されているが(伊藤・綾部・菊地,2012),相対比較の際に意味水準での特徴にアクセスすることが記憶を促した可能性は否定できない(処理水準効果).本研究の偶発学習段階において実験参加者は,意味水準か非意味水準の特徴に基づいて二つの選択肢項目間の相対比較を行うか,単独の項目に対して意味水準か非意味水準で判断を行った.その結果,二つの項目間で相対比較が行われた場合にも,単独の項目に対して判断が行われた場合にも,再生成績における処理水準効果が認められた.さらに重要なことに,処理水準にはかかわらず項目間の相対比較による記憶の促進が認められた.よって,記憶における自己選択効果の生起には選択の際の相対比較が必要であり,処理水準効果のみが貢献しているとは言えない可能性が示唆された.

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