優秀発表賞

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日本認知心理学会優秀発表賞

第21回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ

 日本認知心理学会優秀発表賞規程に基づき,選考委員会において慎重な審議を重ねた結果,発表総数件の中から,以下の7件(2部門での同時受賞を含む)の発表に優秀発表賞を授与することに決定しました.受賞者には第22回大会にて授与を行います.

2023年11月22日

※下記受賞者の所属表記はすべて,発表当時のものとなります.現在の所属と異なる場合もあります.ご了承いただけますと幸いです.
※お名前表記に*がある方は2023年11月22日時点での非会員です.次回大会時に予定されている授与式までに入会された場合には発表賞授与の対象となります.

新規性評価部門

受賞者(所属)

松田憲1,*川柳集1,*新谷拓馬1,*畔津憲司1,*齋藤朗宏1,有賀敦紀2(1.北九州市立大学,2.中央大学)

発表題目

背景音のテンポが選択のオーバーロード現象に及ぼす影響

発表要旨

選択肢の過多はかえって選択行為を阻害するという現象は,選択のオーバーロード現象(Iyengar & Lepper, 2000)として知られている.本研究では選択時に流れる背景音に注目し,そのテンポが選択のオーバーロード現象の生起に及ぼす影響について検討した.111名の参加者には,課題説明の後に4枚ないし12枚の画像を背景音とともに呈示し,その後に欲しい画像の1~3位までの順位付けとその順位付けに対する満足度と後悔度の6段階評定を求めた.背景音としてメトロノームのカウント音を,課題説明時には90bpmのテンポで,選択画像呈示時には130bpmか90bpm,50bpmのいずれかのテンポで呈示した.実験の結果,背景音のテンポが速い場合には,選択肢が多数の時の方が少数の時よりも満足度の低下と後悔度の上昇傾向が示された.また,選択肢が多い場合には,背景音のテンポが遅い時よりも速い時の方が,満足度が低下して後悔度が上昇していた.速いテンポによる慌ただしさが課題に対する注意配分を減少させ,選択のオーバーロード現象を生起させたと考える.

選考理由

本研究では,選択肢の数が増えるほど意思決定に悪影響を与える選択のオーバーロード現象について,背景音のテンポが及ぼす影響を検討している.選択のオーバーロード現象については,再現されないという報告も複数存在しており,その生起プロセスについては不明瞭な点も多い.先行研究の多くが認知負荷に焦点を当てているのに対して,本研究は背景音のテンポという新たな実験操作を採用しており,独自性の高い研究と評価できる.テンポが速い時に選択のオーバーロード現象が生じることを示し,課題に対する注意配分との関連が示唆されており,今後の発展が期待できる.これらの理由により,新規性評価部門の優秀賞に値する研究であると判断した.


受賞者(所属)

小林穂波1,3,紀ノ定保礼2,伊藤友一1(1.関西学院大学,2.静岡理工科大学,3.日本学術振興会)

発表題目

エフォートによる損失割引効果を用いた交通場面の意思決定の検討

発表要旨

エフォートによる損失割引の枠組みを利用して交通渋滞の場面における意思決定について調べた.事前登録をした上で2つの調査を行い,渋滞で待つ時間によって到着時間の遅れが主観的に割り引かれる程度がどのように変化するかをベイズ階層モデリングで調べた.調査1は大学生を対象に,調査2は運転免許を持つ人を対象に実施した.調査では,目的地への到着時間が遅れるとしても渋滞を回避するか,目的地への到着時間はそのままで渋滞に巻き込まれるかを選択する課題を利用した.その結果,どちらの調査でも,渋滞で待つ時間が増加しても到着時間の主観的な割引率の減少速度が一定であるという双曲割引モデルが支持された.この結果はエフォートによる損失割引の他の研究結果と一致する.渋滞で待つことの心的エフォートにより,到着時間の遅れが割り引かれて,目的地への到着時間が遅れるとしても渋滞を回避する意思決定をする可能性を示唆した.

選考理由

本研究は,意思決定でのエフォートによる損失割引効果について,ベイズ階層モデルを用いて検討したものである.特に自動車を運転する交通場面を取り上げ,渋滞に巻き込まれた際,目的地への到着が遅れても渋滞のない別の道に迂回するか,渋滞している場所で待ち続けるかという意思決定について検討している.調査の結果,ベイズ階層モデリングによって渋滞の待ち時間が長くなるほど到着時間の遅れという損失が割引かれることを明らかにし,渋滞を待ち続けるという心的エフォートが到着の遅れという損失を割引き,例え到着が遅れたとしても渋滞を回避する意思決定をすることを明らかにした.先行研究でさまざまな場面のエフォートによる損失割引効果が検討されてきたが,本研究が新たに交通場面を検討したことにより,当該現象に関する貴重な知見が加えられた.以上の理由により,本研究は新規性評価部門の優秀賞に十分に値するものと判断した.


受賞者(所属)

井関龍太(大正大学)

発表題目

人工知能は音象徴の夢を見るか?

発表要旨

ポケモンを想定した名前には音象徴効果が働くことが知られている.たとえば,有声阻害音を含む名前のポケモンは,無声阻害音のそれよりも,強く,大きいと判断される.名前以外の手がかりはなく,意味を欠いているため,音の組み合わせによる効果と考えられる.近年の画像生成AIにはテキスト入力に基づいて画像を作るものがある.これはテキストと視覚的特徴の間の複雑な結びつきを学習した結果である.では,音象徴効果が期待される名前をAIに入力して生成された画像は,それに対応した特徴を持つのだろうか.本研究では,有声阻害音と無声阻害音を含む名前から生成された架空のポケモン画像を提示して,いずれの名前が合っていると思うか,どのくらい強いと思うか,大きいと思うかの評価を求めた.名前の効果は認められなかったが,刺激のランダム効果を推定できる実験デザインを用いることで一度の実験によって刺激によるアーティファクトを判別できることが示された.

選考理由

「人工知能は音象徴の夢を見るか?」と題された本研究は,表題のインパクトだけでなく,以下の三つの点で新規性評価部門の優秀賞に値するものであった.第一に,AIで生成された画像にもヒトの音象徴効果が認められるかという問題の立て方が興味深い点である.第二に,画像生成AIなどの最新技術をヒトの心理学実験に活用する方法論を提供している点にある.これらの知見は,今後増加していくであろうAIを用いたヒト心理学研究の参考になりうる.最後に,得られた統計結果を複数示し,比較することで,t検定では検証できない刺激のランダム効果の影響を実証的に示し,再現性に関わる統計的問題に警鐘を鳴らしている点である.
実験結果は有意ではなかったが,興味深い方法・結論であり,総合的に見て優秀賞に値するといえる.


受賞者(所属)

津田裕之(同志社大学)

発表題目

美的画像特徴量を用いた西洋風景画の様式変遷の分析

発表要旨

近年の視覚科学の研究から,人間の情景認識や質感認識は比較的単純な画像特徴量の計算に基づいて処理されている可能性が示唆されている.同時に,それらの画像特徴量は視覚的な快さなどの美的(感性的)処理にも関連している.本研究ではそうした画像特徴量(スペクトル特性やフラクタル特性など)を美的画像特徴量と呼ぶ.本研究は,印象派を代表する3人の画家(モネ・シスレー・ピサロ)を対象に,彼らの絵画作品が持つ美的画像特徴量がどのような値を持ち,そしてどのような時系列変化を示すのかを検討した.その結果,美的画像特徴量の時系列変化は,美術史分野における知見(各画家が生涯の中で示した絵画表現の時代変遷)とよく対応することが明らかになった.この結果は,絵画様式の時代変遷の指標として美的画像特徴量が有効であることを示すとともに,美術の歴史を人間の知覚・感性の特性という観点から基礎づけることができる可能性を示唆する.

選考理由

本研究は,人間の知覚と関連する美的画像特徴量が,絵画の表現様式の時代変遷あるいは一貫性の指標として利用できる可能性を示したものである.19世紀末の印象主義を代表する3人の画家 (モネ・ピサロ・シスレー) の作品の画像特徴の経年変化を分析し,美的画像特徴量が,各画家の表現様式に関する美術史上の知見と関連することを示した (例: モネが抽象度の高い作風を見せた時期に一致して,視覚的複雑性の指標となるフラクタル次元の低下が認められた).他の画家,他の美的画像特徴量については未検討であることなど課題も残るが,美術史研究に新たな視点を提供した独創性を高く評価した.以上の理由から,本研究は新規性評価部門における優秀発表賞に値する研究であると判断した.


技術性評価部門

該当なし


社会的貢献度評価部門

受賞者(所属)

宮崎由樹1,鎌谷美希2,*須田朋和3,*若杉慶3,*松永芳織3,河原純一郎2(1.福山大学,2.北海道大学,3.ユニ・チャーム株式会社)

発表題目

透明なマスクを着用した話者の親しみやすさや温かさの印象の向上

発表要旨

不織布マスクの使用は着用者の社会的印象に影響する.しかし,先行研究は視覚手がかり(顔)のみを用いており,不織布マスク着用によって損なわれ,かつ社会的印象にも影響する聴覚手がかり(声)の影響について検討されていない.本研究は,声の手がかりの影響も検証するために,道案内をする話者の動画刺激を用い,不織布マスク着用が親しみやすさ,温かさなどの社会的印象に及ぼす効果を検証した.また,透明なマスクの使用で,その社会的印象の変調効果が低減されるかどうかも検討した.実験の結果,予想に反し,話者が不織布マスクを着用した場合とマスクなしの場合で,社会的印象の評価に有意差は認められなかった.ただし興味深いことに,不織布マスクに比べ透明マスクを着用した場合には,話者の親しみやすさや温かさが高く評価された.この向上は,透明マスクを着用すること自体の直接効果,スピーチの流暢さ向上による間接効果によってもたらされていた.

選考理由

本研究は,マスクなし・不織布マスク・透明マスク条件間で,親しみやすさや温かさなどの社会的印象がどのように変化するかを検討した研究である.特に興味深いのが,透明マスク着用時に親しみやすさや温かさといった印象が高かったことである.実験1ではマスクなし時よりも高かった.実験2では不織布マスク着用時より高く,その違いの一部は音声の流暢さを媒介しない直接効果で説明された.マスク着用状況から,その他者の社会的規範に対する態度が推測されるためと解釈できる.この数年,マスクの着用が様々な議論を呼び起こした中で,本研究は,マスク着用による物理的変化のみならず,マスク着用に対して私たちが形成した態度の社会的影響をも指摘した.以上より,本発表が社会的貢献評価部門の優秀発表賞に十分に値すると判断した.


発表力評価部門

受賞者(所属)

宮崎由樹1,鎌谷美希2,*須田朋和3,*若杉慶3,*松永芳織3,河原純一郎2(1.福山大学,2.北海道大学,3.ユニ・チャーム株式会社)

発表題目

透明なマスクを着用した話者の親しみやすさや温かさの印象の向上

発表要旨

不織布マスクの使用は着用者の社会的印象に影響する.しかし,先行研究は視覚手がかり(顔)のみを用いており,不織布マスク着用によって損なわれ,かつ社会的印象にも影響する聴覚手がかり(声)の影響について検討されていない.本研究は,声の手がかりの影響も検証するために,道案内をする話者の動画刺激を用い,不織布マスク着用が親しみやすさ,温かさなどの社会的印象に及ぼす効果を検証した.また,透明なマスクの使用で,その社会的印象の変調効果が低減されるかどうかも検討した.実験の結果,予想に反し,話者が不織布マスクを着用した場合とマスクなしの場合で,社会的印象の評価に有意差は認められなかった.ただし興味深いことに,不織布マスクに比べ透明マスクを着用した場合には,話者の親しみやすさや温かさが高く評価された.この向上は,透明マスクを着用すること自体の直接効果,スピーチの流暢さ向上による間接効果によってもたらされていた.

選考理由

本研究は,マスクなし・不織布マスク・透明マスク条件間で,親しみやすさや温かさなどの社会的印象がどのように変化するかを検討した研究である.特に興味深いのが,透明マスク着用時に親しみやすさや温かさといった印象が高かったことである.実験1ではマスクなし時よりも高かった.実験2では不織布マスク着用時より高く,その違いの一部は音声の流暢さを媒介しない直接効果で説明された.発表においては,研究方法が動画を用いてわかりやすく説明されるなど工夫がみられた.研究意義や成果の提示も明快であり,聴衆の関心を惹きつける魅力的な発表であった.以上より,本発表が発表力評価部門の優秀発表賞にふさわしいと判断した.


 国際性評価部門

受賞者(所属)

Hiroshi YAMA1,*Kyung Soo DOI2,*Niall GALBRAITH3,Norhayati ZAKARIA4,*Véronique SALVANO-PARDIEU5,*Minli CHIU6(1.Osaka Metropolitan University, 2.Sunkyungkwan Unversity,3. University of Wolverhampton, 4. University of Sharjah, 5. University of Tours, 6.Holding Self Counseling Cente)

発表題目

Cultural differences in preference for enthymemes: A cross-cultural study of the Japanese, Koreans, Taiwanese, French, and British

発表要旨

本研究では,欧米人の文化とみなされる低コンテクスト文化と東洋人の文化とみなされる高コンテクスト文化の区分を,三段論法と比較した省略三段論法の受容と,省略三段論法に暗黙的に含まれる大前提の熟知性への感度 (コードスイッチング) の2つの尺度を用いて検証する.日本人,韓国人,台湾人,フランス人,イギリス人の参加者が,三段論法よりも省略三段論法を好むかどうか,また省略対象となる大前提の熟知性に敏感かどうかが調べられた.参加者にはModus Tollens型の三段論法と省略三段論法を与え,どちらが説得的か,論理的か,自然か,詩的か,賢明かを7段階で評価してもらった.その結果,省略三段論法好みの結果は解釈できないものだったが,日本人,韓国人,フランス人においては,省略の対象となる大前提の熟知性に対する感度が高かった.日本語,韓国語,フランス語は高コンテクスト言語に分類される.コードスイッチングは,高コンテクスト文化の特徴とされるが,西洋対東洋というよりも言語特性に影響される.

選考理由

本研究は,三段論法の選好評価(説得性や論理性,自然さなど)について国際比較を行ったものである.具体的には,日本,韓国,台湾,フランス,イギリスの5か国について,各国の文化が持つcontext(暗黙に共有されている情報・共通知識)の高低に着目し,三段論法の前提のfamiliarityを操作することで,論全体の選好がどのように異なるかを実験的に検証した.また,文化と言語,それに本実験結果との構造関係を示すモデルも考察した.発表者は,三段論法の選好に関する文化差を6か国の研究者(発表者含む)とのコラボレーションを通して明らかにしており,この点には大きな意義が認められる.当日の発表においても,英語でのトーク,スライド資料とも非常に明瞭であった.よって,国際性評価部門の受賞に推薦する.


総合性評価部門

該当なし


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