第8回日本認知心理学会優秀発表賞

第8回 日本認知心理学会 優秀発表賞

 日本認知心理学会優秀発表賞規程に基づき、選考委員会において審議を重ねた結果、推薦発表総数24件の中から、以下の4件の発表に、規程に定められた評価部門の優秀発表賞を授与することに決定いたしました。受賞者には第9回大会の総会にて、優秀発表賞を授与いたします。会員の皆様におかれましては、今後とも日本認知心理学会におきまして数多くの優れた発表をなされることをお願いいたします。

2010年12月10日
日本認知心理学会優秀発表賞選考委員会委員長
箱田 裕司

新規性評価部門
受賞者(所属):
北神慎司1・菅さやか2・KIM Heejung3*・米田英嗣4,5*・宮本百合6*(1 名古屋大学・2 東洋大学・3 カリフォルニア大学サンタバーバラ校・4 日本学術振興会・5 ノースウェスタン大学・6 ウィスコンシン大学)
発 表 題 目 :
「トイレのマークは色が重要?(2)-トイレマークの認知におけるストループ様効果の比較文化的検討-」
発 表 要 旨 :
北神・菅・Kim・米田・宮本(2009)では,日本人を対象として,赤やピンクの男性マークや,青や黒の女性マークにおいてストループ様干渉が起こることを示している.つまり,日本人にとって,トイレのマークを認知する際,色情報が非常に重要であることが示唆されている.それでは,マークの色によってトイレの男女を区別する文化がない場合,ストループ様干渉は生じないのだろうか.本研究では,アメリカ人の大学生を対象としてストループ様課題を用い,トイレマークの認知に,色や形がどのような影響を及ぼすかを検討した.その結果,アメリカ人においては,ほとんどの色でストループ様干渉は示されなかったが,唯一,ピンクで彩色された男性マークにおいて,ストループ様干渉が示された.先行研究の結果と併せて,これらの結果は,色のジェンダー・ステレオタイプという観点から理論的説明が可能であると考えられる.
選 考 理 由 :
トイレマークのピクトグラムの色と形のジェンダー・ステレオタイプを日米 で比較した研究である。青系の寒色と赤系の暖色によるトイレマークのスト ループ様課題を用いた実験の結果、日本人では色によるジェンダー・ステレオ タイプの干渉が示されたが(前年度認知心大会発表)、アメリカ人ではピンク 色にのみストループ様干渉が生じるという結果が得られた。以上の結果からト イレマークのジェンダー・ステレオタイプは日本人特有のものであるが、ピン ク色は文化普遍的なジェンダー・ステレオタイプ的性格を有する色であること が示唆された。トイレマークのピクトグラムに着目し、その色とジェンダーの ストループ様干渉を日米で実験的に比較・検討することにより興味深い結果が 得られた本研究は、新規性評価部門の優秀発表賞にふさしいものと判定した。

 

技術性評価部門
受賞者(所属):
酒井徹也1・片山 優2*・漁田俊子3・漁田武雄4(1 静岡大学創造科学技術大学院 ・2 静岡ダイハツ販売株式会社・ 3 静岡県立大学短期大学部・4 静岡大学情報学部)
発 表 題 目 :
「自由再生における匂い文脈依存効果を規定する要因」
発 表 要 旨 :
環境的文脈依存記憶とは,符号化時と検索時の環境的文脈が一致した場合に,一致しなかった場合よりも検索が促進される現象のことである。匂いを環境的文脈として操作した先行研究の多くは,1日以上の長期遅延の条件によって文脈効果を見出しており,短期遅延の場合には,言語的手がかりによって匂い手がかりがアウトシャインされてしまうために文脈効果が消失すると考えられてきた。しかし短期遅延による文脈効果消失の別の理由として,匂いに対する順応によって検索時の匂い文脈が手がかりとして機能しなくなっていた可能性も考えられる。順応は長期遅延あるいは異なる匂いの提示によって解除することが可能である。本研究は遅延時間を5分間に設定し,遅延時間中に新奇な匂いを提示することによって順応を解除したとき,文脈効果が生じるか否かを検証した。その結果,短期遅延の条件であっても,順応を解除することで文脈効果が生起しうることを見出した。
選 考 理 由 :
匂いと記憶の関連性については,近年大きな関心が寄せられている。学習時とテスト時で同じ匂いを嗅ぐと,そうでないときと比較して学習の項目がより多く思い出せる,といった現象について調べた研究などがこれに当たるだろう。しかしながら,匂いを用いた研究に常に付きまとうのが,匂いへの順応や慣化の問題である。最初は印象的だった匂いに対しても必ず慣れが生じる。匂いの効果が明瞭に出ないとき,これがその一因になっている可能性がある。本研究では,保持期間に新奇な匂いを呈示することで,匂いへの順応からの回復を促している。長い保持期間によって匂いへの順応や慣化から回復させる方法もあるが,本研究の方法の方がより簡単に匂いの効果を調べる実験を行うことが出来るだろう。そのため,本研究は,匂いと記憶との関連性をより深く調べることに技術的に大きく寄与したと考えられる。

 

社会的貢献度評価部門
受賞者(所属):
森川和則・片岡咲*(大阪大学人間科学部)
発 表 題 目 :
「人はなぜ賭けるのか: ギャンブルにおける制御幻想・満足感・熱中感」
発 表 要 旨 :
平均すれば参加者が損をするにもかかわらず、ギャンブルを続ける人は後を絶たない。ギャンブルに魅力を感じる原因のひとつは制御幻想(illusion of control)であると考えられる。制御幻想とは、本当は制御不可能である事象を自分のスキルである程度制御できると思い込み、ギャンブルの勝率を高く見積もり過ぎることであると考えられてきた。しかしギャンブルにおける制御幻想に関する先行研究のほとんどは現実性に乏しい。本研究では比較的現実的なギャンブル条件(ルーレット)を用い、参加者が多数回の賭けを経験した後で、制御幻想の程度、満足感、熱中感、勝率の自己評価(主観的勝率)を測定した。その結果、満足感に強い影響を及ぼすのは勝ち負けの結果であるが、熱中感を高めるのは制御幻想であることが示された。しかし、いずれの場合も主観的勝率は非常に正確であったことは制御幻想が勝率の過大評価とは異なることを意味する。制御幻想が勝ち負けの自己評価から乖離することが病的賭博傾向へつながることが示唆された。
選 考 理 由 :
制御不可能な現象を制御可能であると考える(信じる)制御幻想(illusion of control)について,これまで行われてきた1回のみの試行ではなく多数回試行という場面で,パソコン上のルーレット課題という実験的手法を用いて検討を行った研究である.実験の結果,賭けの結果にまったく差が無くても自分で関与していると感じた場合に制御幻想が生じること,自分でコントロールできるという思い込みが熱中感に影響することなどが見いだされた.これらの結果は,社会で日常的にみられるギャンブルへののめり込みという現象の背景にある過程を解明する一助となると考えられる.

 

発表力評価部門
受賞者(所属):
小野史典1・堀井幸子1*・渡邊克巳1, 2, 3 (1 東京大学・2 科学技術振興機構・3 産業技術総合研究所)
発 表 題 目 :
「時間知覚に与える個人差の影響」
発 表 要 旨 :
日常生活において、感じる時間の長さが人によって異なる例は少なくない。例えば、同じ映画を見ても、短く感じる人もいれば長く感じる人もいる。本研究では、こうした主観的な時間の長さにおける個人差の影響を調べた。実験協力者は、標的時間(2.5s)が経過したと感じた時点でキーを押す、時間作成課題を行った。その際、視覚または聴覚による妨害刺激を呈示した。その結果、妨害刺激を呈示した際の作成時間は、統制条件の作成時間よりも有意に短かった。さらに、視覚と聴覚のそれぞれの妨害刺激による作成時間の短縮の度合いに相関が見られた。この結果は、時間知覚を司る脳内ペースメーカーがモダリティ間で共通であることを示している。加えて、妨害刺激による短縮の度合いに性別による違いが見られた。この結果は、時間知覚における視聴覚情報の処理過程が男女で異なる可能性を示唆している。
選 考 理 由 :
本研究は、時間研究で確立されてきた信頼性の高い実験手法を用いながら、これまでにない解析を試み、時間の知覚特性に男女差が見られるという興味深い結果を示している。研究では、時間知覚の個人差という、分析が難しい新しいテーマに焦点をあてているが、発表資料は洗練されており、明瞭な構成で論じられていた。口頭による発表も意欲的で、よく調べられた背景知識に基づいた説明であり、来場者の興味を引きつけ、活発な議論が行われた。こうした理由から、優れた発表として評価できる。

(注;*は2011年1月12日現在での非会員を示す。規程により、非会員の方は受賞の対象となりませんが、本年度内に会員になれば受賞資格が与えられます。)

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