第6回日本認知心理学会優秀発表賞

第6回 日本認知心理学会優秀発表賞

 日本認知心理学会優秀発表賞規定にもとづき,選考委員会において審議を重ねた結果,推薦発表総数28件の中から,以下の4件の発表に,規定に定められた評価部門の優秀発表賞を授与することに決定いたしました。受賞者には,第7回大会の総会にて,優秀発表賞を授与いたします。会員の皆様におかれましては,今後とも日本認知心理学会大会におきまして数多くの良い発表をなされることをお願いいたします。

2008年11月20日
日本認知心理学会優秀発表賞選考委員会委員長
太田 信夫

新規性評価部門
受賞者(所属):
山田恭子・中條和光(広島大学)
発 表 題 目 :
「遅延が手がかり再生課題における環境的文脈依存効果に与える影響」
発 表 要 旨 :
記憶における環境的文脈依存効果とは,符号化時と検索時とで環境的文脈が一致すると,一致しない場合よりも記憶成績がよくなる現象のことである。この効果は,検索手がかりとして記銘項目自体やその一部が再呈示されると,それが環境的文脈の効果を覆い隠してしまうために観察されないとされてきた (アウトシャイン仮説)。本研究では,このアウトシャイン仮説を検証することを目的として,記銘項目 (単語) の一部分を再呈示する手がかり再生課題において,符号化から課題遂行までの遅延期間が効果の生起に及ぼす影響を調べた。視覚呈示した単語を偶発的に符号化させた後,手がかり再生課題を行った。遅延期間は,実験1では約1週間,実験2では約10分間とした。その結果,実験1でのみ効果が生起した。長い遅延によって単語の視覚的特徴の表象が減衰したことによって環境的文脈の効果が生起したと考えられ,アウトシャイン仮説の妥当性が示唆された。
選 考 理 由 :
本研究は,アウトシャイン仮説の実証に成功した貴重な研究といえる。アウトシャイン仮説はSmithによって提唱され,再認や手がかり再生における環境的文脈依存効果の不安定さをよく説明できるとされている。その反面,実証性には非常に問題がある。提唱しているSmith自身が行った実験 (Smith, 1986) を,自身で否定している始末である (Smith, Vela, & Williamson, 1988)。そのような中で,Parker, Ngu, Cassaday (2001) は,アウトシャイン原理で説明可能なデータを報告している。しかしながら,長期遅延のみのデータであるため,アウトシャイン仮説以外の説明も十分に可能であった。この研究は,短期遅延と長期遅延の両方を調べ,短期遅延では生じない環境的文脈依存効果が,長期遅延で生じることを見いだし,アウトシャイン仮説を明確に実証した。

 

新規性評価部門
受賞者(所属):
村山 航(日本学術振興会・東京工業大学)
発 表 題 目 :
「感情誤帰属手続きにおける自動処理・統制処理の分離 -ROC曲線を用いたアプローチの提案-」
発 表 要 旨 :
潜在的・自動的な態度を測定する方法に感情誤帰属手続き (affect misattribution procedure; AMP) があるが,この方法は参加者の意図的な反応歪曲 (統制的な処理) に影響を受ける可能性があることが指摘されてきた。本研究では,AMPの判断過程を信号検出理論によってモデル化し,統制処理を確率的な閾値の極化過程として定式化することによって,自動的な処理の成分と統制的な処理の成分をデータから分離する方法を提唱した。具体的には,データから得られたROC曲線と,上記のモデルから得られたROC曲線の違い (二乗誤差) を最小化するよう最適化計算を行うことで,それぞれの処理のパラメータ値を得ることができる。3つの実験の結果,提案されたモデルは,データに対する適合がよかった。また,それぞれの実験操作から予測される通りのパラメータ値の変化があった。以上より,モデルの妥当性が示された。
選 考 理 由 :
潜在的態度を測定するために提案された「感情誤帰属手続き (AMP) 」(Payne et al., 2005) は,頑健で信頼性および有効性の高いものと考えられている。しかし,この手続きでは刺激の評価をする際に,被験者の意図的な処理が混入してしまう可能性があった。本研究ではROC曲線を用いて,このような意図的な判断バイアスを分離する試みが提案された。ROC曲線は,従来は主に知覚や記憶研究で用いられてきたものであり,社会的認知の領域で用いられた例はほとんどみられなかった。以上のように,本研究は,比較的新しい手法に着目し,独創的なアプローチで意図的処理を分離しようとした点において,新規性の高い研究と評価される。

 

社会的貢献度評価部門
受賞者(所属):
寺澤孝文1・岩本真弓2*1岡山大学,2岡山県保健福祉部)
発 表 題 目 :
「不登校児の学習意欲を高めるマイクロステップ学習支援」
発 表 要 旨 :
一般の学習場面で用いられる多数の学習コンテンツについて,繰り返し何度も学習がなされる日常的な学習場面を対象に,全ての学習イベントやテストイベントの生起を年単位で緩やかにスケジューリングし,そのスケジュールに従って各種イベントを生起させ,膨大な反応データを個別に収集する技術 (マイクロステップ計測法) が確立された (寺澤・吉田・太田, 2007)。この技術により,成績の時系列変化を個別に描き出し,フィードバックすることも可能になってきた。それを組み入れたe-learningシステムを用い,成績の変化を個別フィードバックする学習支援を,不登校生徒を対象に半年以上にわたり継続した。その結果,不登校生徒の学習意欲が大幅に向上した事実,および,フィードバックデータを地域の支援者が不登校生徒の自宅に届けるしくみを構築したことで,不登校生徒の自宅に,社会との新たな接点を作り出すことができた事実を報告した。
選 考 理 由 :
本研究は,完全に自宅に引きこもってしまった子どもに対して学習支援として発表者が独自に開発したマイクロステップ計測法に基づくe-learningシステムを適用し,有益な効果が得られたことを報告したものである。約30週にわたってこのシステムを利用して漢字の読み学習を行った結果,対象者の学習客観テストの成績は向上した。また学習を促す教示がないにもかかわらず、本人の意志により学習が継続されたことから,対象者の学習意欲向上という効果が得られることが示された。本研究は不登校の子どもに対する心理学的知見に基づく支援手法を客観的効果測定結果とともに提案するものであり,現在の主要な社会問題である不登校問題に対して具体的解決策を提供する。このことから,本研究は高い社会的貢献度を持つものとして評価できる。

 

社会貢献度評価部門
受賞者(所属):
佐藤 拓・仁平義明(東北大学大学院文学研究科)
発 表 題 目 :
「言語からの虚偽検出:形態素解析とCBCAの判別力の比較」
発 表 要 旨 :
言語からの虚偽検出の方法は大別すると3つの水準に分けられる。第一の水準は,言語の形態的側面に注目し,ある機能を担う言葉 (e.g., 名詞,接続詞) の含有率を分析する形態素解析である。第二は,ある特定の意味を持つ単語 (e.g., 曖昧語) の含有率を分析する語彙・意味分析である。第三は,陳述の内容そのものに注目し,ある真偽判断の基準 (e.g., 一貫性) に合致するかどうかを質的に分析する方法である。本研究で3水準の虚偽検出の判別力を比較し、併用により精度が向上するかどうかも検討した。初回の陳述の場合、形態素解析による嘘・真実の判別の精度は84.6%、語彙・意味分析の精度は82.1%であったが、先行研究で有効性が確認されている質的分析法 (Criteria-Based Content Analysis, CBCA) の精度は61.5%であった。併用により精度は87.2%まで高まったが、形態素解析、意味・語彙分析だけでも高い判別力が期待されることが示された。
選 考 理 由 :
本研究は,真実の陳述と虚偽の陳述を見分けるという問題に関して,CBCA,形態素解析,語彙・意味分析という3つの方法を比較したものである。このような陳述の分析による虚偽検出の研究は、わが国では少なく,特に実験的な検討はほとんどなかった。著者らは,周到な実験的方法を用いて検討を行い,欧米での研究と比較しても高いレベルの検出率を得ている。材料とした陳述の適切さの問題や欧米での研究との相違についての考察など,これからの課題も多いが,本研究を発展させることによって,事件の捜査や裁判など司法の場における虚偽の検出に役立てることが可能となるものと考えられる。

 

(* 規定により,非会員の方は受賞の対象とはなりません.)
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