第5回日本認知心理学会優秀発表賞
日本認知心理学会優秀発表賞規定にもとづき,選考委員会において審議を重ねた結果,推薦発表総数34件の中から,以下の4件の発表に,規定に定められた評価部門の優秀発表賞を授与することに決定いたしました.受賞者には,第6回大会の総会にて,優秀発表賞を授与いたします.会員の皆様におかれましては,今後とも日本認知心理学会大会におきまして数多くの良い発表をなされることをお願いいたします.
2007年11月30日
日本認知心理学会優秀発表賞選考委員会委員長
太田 信夫
新規性評価部門 | |
受賞者(所属): | 小野史典1・2・北澤茂1*(1 順天堂大学・ 2 日本学術振興会) |
発 表 題 目: | 「時間知覚に与える奥行き方向の運動の影響」 |
選 考 理 由: | これまで二次元平面での運動特性と時間知覚の関係は多くの研究で検討されてきた.しかし我々の生活空間は三次元である.ここに,本研究は三次元空間での運動特性(遠近運動)と時間知覚の関係を検討し,時間知覚に遠近方向での非対称性,すなわち運動距離が同じであっても,知覚時間は接近運動の場合には短く,後退運動の場合には長いことを見いだした.これは安全性の観点からしても生態学的妥当性を有し,興味深い新しい知見として評価される.受賞者の一連の時間知覚研究がさらに発展し,統合されていくことが期待される.発表も手際よく的確に行われた. |
技術性評価部門 | |
受賞者(所属): | 木村貴彦・篠原一光・駒田悠一・三浦利章(大阪大学大学院人間科学研究科) |
発 表 題 目: | 「運転時の聴覚刺激が有効視野とメンタルワークロードに与える影響」 |
選 考 理 由: | 聴覚刺激の処理が視覚刺激の検出にどのように影響するかという問題を,ドライビング中の有効視野と心的ワークロードの視点から実験的に検討したユニークな発表であり,高い技術性や社会的貢献度の観点から評価できる.とくにn-バック課題を用いた聴覚刺激による心的ワークロード課題の有無と先行車両の有無が操作され,動的な注意が有効視野に影響を及ぼすことが明らかにし,ワーキングメモリが交通安全に影響することを指摘した意義は大きい. |
社会的貢献度評価部門 | |
受賞者(所属): | 重森雅嘉(鉄道総合技術研究所) |
発 表 題 目: | 「情報処理段階を越えたエラーメカニズムの共通性」 |
選 考 理 由: | 本研究はエラーの発生メカニズムに関する実験的研究であり,知覚段階,判断段階,行為段階の各段階で生じるエラー課題の成績が,課題遂行時の注意状態によってどのように変化するか,という問題について検討している.エラーを起こしやすい条件でのエラー発生率は,どの段階のエラー課題であっても,注意条件に比べて不注意条件でより高いという結果が得られている.この結果より,エラーの発生メカニズムはどの認知段階においても共通のメカニズムに基づいていることが確認されたと結論づけられている.注意とエラーという,おそらくは関係が深いと思われるが実際には十分な検討がなされていない問題を検討している点,および,本研究の知見が実際場面でのエラー防止対策の基盤として有用なものとなりうる点から,本研究は高い社会的貢献度を持つものとして評価できる. |
発表力評価部門 | |
受賞者(所属): | 日高聡太1・2・河地庸介1・2*・行場次朗1 (1 東北大学大学院文学研究科・2 日本学術振興会) |
発 表 題 目: | 「仮現運動中の3次元物体表象が保持する奥行情報の検討」 |
選 考 理 由: | 仮現運動に関する研究において物体の表象そのものを解明しようとする研究が少ない点を考慮すると,本研究は極めて独創的で果敢な取り組みであると考えられる.また,本研究において仮現運動物体表象が2次元と3次元の中間的な奥行き情報を保持すること,ならびにその中間的な奥行き情報をもつ仮現運動物体表象が低空間周波数成分優位であることを明らかにしたことは,知覚研究において意義ある成果をもたらしたものと考えられる.さらに,本研究のポスターは,実験内容や結果を簡潔かつ的確に表現し,レイアウトなどデザイン面も含めて分かりやすい優れたものであった.また,口頭による説明も丁寧であり,本研究は発表として理想的なものであったと判断できる. |
(* 規定により,非会員の方は受賞の対象とはなりません.)