第16回日本認知心理学会優秀発表賞

第16回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ

 日本認知心理学会優秀発表賞規程に基づき,選考委員会において慎重な審議を重ねた結果,発表総数188件の中から,以下の6件の発表に優秀発表賞を授与することに決定しました.受賞者には第17回大会の総会にて授与を行います.

2019年1月9日
日本認知心理学会 優秀発表賞選考委員会
委員長 熊田 孝恒

新規性評価部門
受賞者(所属):
今井史1,佐藤智穂2,互恵子2,河原純一郎1(1. 北海道大学,2. 資生堂グローバルイノベーションセンター)
発 表 題 目 :
「自己同一化された二次元キャラクターに対する視線シフト」
発 表 要 旨 :
人は自分の顔(自己顔)の右側,つまり鏡を見た時の右視野に該当する部分を左側よりもよく記憶しているとされる.そのような偏りを生む背景については,人が鏡などで自己顔を見る際,向かって右側の領域を凝視する傾向があるという可能性が考えられる.本研究ではこれを作業仮説とし,右側への視線の偏り(視線シフト)が,ゲーム内の自分のキャラクターのように自己同一視した対象にも生じるかを検討した.実験参加者は二次元キャラクターの顔を5つ提示され,そのうち1つを自分のキャラクターとして選択し(選択課題),次に,各顔を改めて観察した(観察課題).その結果,参加者が選んだ顔つまり自己同一視された顔では観察課題時に視線が右側へ有意に偏る一方,選ばなかった顔では偏りが生じなかった.また,選択課題時にはどちらの顔でも視線シフトは生じていなかった.これらの結果から,キャラクターの顔に対しても選択し,自己同一視することで右側への視線シフトが生じると考えられた.
選 考 理 由 :
本研究は,自分の代理となる二次元キャラクター(アバター)を選択させ,それを観察中の視線の左右偏向率を計測するという,独自性の高い工夫された実験によって,アバターに対する視線が右側に偏ることを端的に実証した.この結果は,外部刺激への自己同一化という客観的な検討が難しい現象に対して,比較的容易に計測可能な視線を指標として利用できる可能性を新たに示すものである.さらに,本研究の成果を展開することで,自己同一化の程度,過程や発生機序,あるいは一体感や自己投影など自己同一化との関連性が想定される諸現象の検討への応用も期待できる.以上の点から,本研究は新規性評価部門での優秀賞に値する研究であると判断した.
受賞者(所属):
乾敏郎,寺前ひかり,杉浦優衣,前川亮(追手門学院大学)
発 表 題 目 :
「視点取得機構のシミュレーション仮説の検討-乗り物酔い感受性との関係-」
発 表 要 旨 :
乾(2016)の視点取得モデルでは,視点取得に頭頂前庭皮質が関与していると考えられている.頭頂前庭皮質は前庭器官からの信号が来ており,電気刺激すると身体運動の錯覚が生じる.前庭器官が関わるとされる事象の1つが,乗り物酔いである.そこで,本研究では乗り物酔いの程度と視点取得にどのような関係があるのかを検討した.実験1では人形のリストバンドが右手につけているか左手につけているかを判断した.実験2では,人形から見てパンダのイアリングが右方向か左方向かを判断した.その結果,乗り物に酔いやすい人のほうが,乗り物に酔いにくい人よりも速く視点取得できることが明らかにされた.実験1の2D回転条件でのみ両群に有意差が見られなかった.乗り物の酔いやすい人は前庭器官が敏感であることが示唆されている.これらの結果から視点取得が身体移動の内的シミュレーションであることが支持された.
選 考 理 由 :
本報告は乗り物酔いの程度と視点取得にどのような関係があるのかを検討したものである.実験1では人形のリストバンドが右手につけているか左手につけているかを判断した.実験2では,人形から見てパンダのイアリングが右方向か左方向かを判断した.その結果,乗り物に酔いやすい人のほうが,乗り物に酔いにくい人よりも速く視点取得できることが明らかにされた.一見,関係なさそうな視覚視点取得と乗り物酔いに密接な関係があることを多くの実験参加者を用いて実証的に証明した点で新規性が高い手堅い研究である.新規性評価部門にふさわしい研究である.

 

技術性評価部門
受賞者(所属):
衣巻頌子1,宮内英里2,川崎真弘2(1. 筑波大学システム情報工学研究科,2. 筑波大学システム情報工学系)
発 表 題 目 :
「注意欠如多動性障害と行動リズムの変動性の関係」
発 表 要 旨 :
注意欠如多動性障害(ADHD)の特徴の一つとしてタイミング障害がある.タイミング障害を調べるために,タッピング変動を用いた多くの研究がある.従来指標である変動係数では健常群と同様の結果になるADHD群がいることが知られている.本研究では,リズムタッピング課題(任意のテンポでタッピング)において,新指標であるタッピングずれ(一つ前のタッピング間隔との差分)の有用性を調査した.ADHD傾向はADHD自己記入式症状チェックリスト(ASRS)のスコアを用いた.その結果,従来指標はASRSと相関がなかったが,新指標ではASRSと有意な相関があり,ADHDの行動指標として有用であると示唆された.利き手である右手に比べ,利き手でない左手ではうまく制御できず,ADHDの傾向がよく現れると示唆された.脳波解析では,ASRSに関連して,事象関連電位,時間周波数分析において前頭に差異があった.ADHD傾向が高い人はエラーをより多く認知し,課題の努力を必要であると示唆された.
選 考 理 由 :
注意欠陥多動性障害(ADHD)における特異的な認知処理様式については,これまで多くの取り組みがあり,質問紙や典型的な認知機能検査では把握しづらい特徴について,さまざまな事実が報告されている.本研究は,ADHDにおけるリズム知覚の変動性に着目しており,その神経メカニズムを明らかにするために脳波を用いた検討も行っている.結果として,連続する試行におけるタッピングのずれが,ADHDにおけるリズムの変動性を示す新しい指標になることを示している.さらに,それが前頭部におけるエラー関連陰性電位(ERN)の振幅と関連があることなどを明らかにしている.この成果は,ADHDにおける時間処理に依存する認知の特異性を示唆するものであり,ADHDにおける関連症状の根幹にあるメカニズムに行動,神経の両側面から迫っている.神経発達障害を深く理解する上で重要な研究として位置づけられ,技術性評価部門の優秀賞に値するものと判断する.
受賞者(所属):
川崎真弘,邊見佳輝,宮内英里(筑波大学大学院システム情報工学研究科)
発 表 題 目 :
「経頭蓋脳電気刺激による脳波リズムの誘発と反応時間の促進」
発 表 要 旨 :
外部刺激に対する運動反応には,知覚野と運動野の脳波同期が重要な役割を担う.しかしこれらの観測研究では脳波同期が運動反応に関わっているという因果関係は示せていない.本研究は経頭蓋脳電気刺激を用いて運動反応に関係する脳波を誘発したときの反応速度を調べることで因果関係の特定を試みた.電気刺激の電極は運動野と視覚野に置き,直流刺激2条件,交流刺激2条件(10,20Hz),擬似刺激,の5条件で行った.実験は電気刺激の前後で行い,視覚刺激の位置に従ってできるだけ早くボタン押しを行う課題時の脳波を計測した.行動結果より,直流刺激(陽極運動野,陰極視覚野)の後に反応時間が有意に速くなった.脳波結果より,この条件では運動野と視覚野間のベータ波の位相同期が増加した.さらにベータ波(20Hz)の交流刺激中にも反応時間は促進した.以上の結果は,視覚野と運動野間のベータ波の位相同期が運動応答に直接的に関係する因果関係を示唆した.
選 考 理 由 :
本研究は視覚野と運動野とのβ波の位相同期が運動反応の生起に関係するという重要な知見を見出した.その研究成果は,経頭蓋脳電気刺激により知覚-運動反応に関係する脳波を誘発することによって特定の運動反応が促進させることを可能とし,人工的に運動反応を調整する新たなリハビリテーション技術に資する社会的な意義をも有する研究成果である.巧みな実験条件の設定,複雑な脳ネットワークをシンプルな指標で表現する技術等,技術性評価部門優秀賞に十分に値するものと判断する.

 

社会的貢献度評価部門
受賞者(所属):
今回は該当者なし

 

発表力評価部門
受賞者(所属):
小林正法1,2,上野泰治3,川口潤4(1. 関西学院大学,2. 応用心理科学研究センター,3. 高千穂大学,4. 名古屋大学)
発 表 題 目 :
「系列記憶の検索誘導性忘却-事前登録による実証-」
発 表 要 旨 :
ある記憶を検索することが他の関連する記憶の忘却を導く現象を検索誘導性忘却(Anderson et al., 1994)と呼ぶ.本研究ではこれまで明らかにされていない系列記憶の検索誘導性忘却について検討した.系列記憶はアイテム記憶と順序記憶に分離できるとされるが,本研究では順序記憶において検索誘導性忘却が生じるかを調べ,その機序の説明として抑止(inhibition)が妥当かどうかを検証した.実験1,2の結果から,順序記憶の検索誘導性忘却が生じることが明らかになった.抑止理論が想定する検索固有性に基づけば,検索を再学習に置き換えた場合に,検索誘導性忘却が消失すると想定される.そこで,検索を再学習に置き換えた実験3を行った結果,検索誘導性忘却は生じないことが明らかになった.一連の実験の結果,順序記憶の検索誘導性忘却が生起すること,そして,その機序として抑止が妥当であることが明らかになった.
選 考 理 由 :
ある記憶の検索が他の関連する記憶の忘却を導く検索誘導性忘却が,系列記憶に対しても起こることを明らかにしている.実験1では見られなかった検索誘導性忘却を,記憶の難易度を操作して実験2で見出し,特に後半系列の検索が前半系列の忘却を引き起こすことを示した.メカニズムは記憶表象の活性度と,競合解決のための抑制の観点から明快に説明された.一連の的確な要因計画と実験操作,説得力ある論理展開により,優れた発表であると評価された.

 

国際性評価部門
受賞者(所属):
今回は該当者なし.

 

総合性評価部門
受賞者(所属):
平本亮介1, 4,金山範明2, 3,宮谷真人1,中尾敬1(1. 広島大学大学院教育学研究科,2. 産業技術総合研究所人間情報研究部門,3. 広島大学社会産学連携室,4. 日本学術振興会)
発 表 題 目 :
「形態的類似性と行為の意味性が身体認識に与える影響」
発 表 要 旨 :
ラバーハンドイリュージョン(RHI)とは,外部物体を自己身体として誤認する錯覚現象であり,外部物体-実身体間における形態の類似性が錯覚生起を規定することが知られている.一方で,錯覚導入時に外部物体を利用した目的遂行をすること,つまり行為の意味性による錯覚への影響が近年示唆されている.しかし,人の身体認識とこれらの要因の関連は依然不明なため,本研究では形態の類似性及び行為の意味性を操作した2つのRHI実験を通じた検証を行った.結果,形態的類似性の高い外部物体への行為の意味性付与は,強い錯覚を生起させた(実験1).興味深いことに,木の棒のような人の手に類似しない外部物体でさえも,それを用いた行為に意味性を与えることで錯覚が生じることが示された(実験2).以上の結果は,外部物体に形態の類似性がなくとも,意味ある行為が,その道具を身体化させること明らかにしており,人間の身体は,有用な道具として認識されることではじめて身体化される可能性を示唆している.
選 考 理 由 :
身体所有感に関する現象として有名なラバーハンド錯視の研究である.本研究では,この錯視が生じるメカニズムに関し,詳細かつ厳密な実験的検討を行っている.外部物体と実身体の形態の類似度および外部物体を用いた行為の意味性の有無を操作し,興味深い重要な結果を報告した.実験の手続き,錯視の計測法など綿密に計画されており高く評価できる.本実験の結果は,ラバーハンド錯視が生じるメカニズムに関して多くの情報を提供するものであり,本研究は総合性評価部門の優秀賞に十分に値するものと判断した.
  • Facebook
  • Hatena
  • twitter
  • Google+

表示されない場合には、上記リンクをクリックいただくか、プライベートブラウジングを解除してご覧ください。
PAGETOP
Copyright © 日本認知心理学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.