第2回 日本認知心理学会優秀発表賞
日本認知心理学会優秀発表賞規定にもとづき、選考委員会において審議を重ねた結果、推薦発表総数39件の中から、以下の3件の発表に、規定に定められた評価部門の優秀発表賞を授与することに決定いたしました。受賞者には、来年5月末の年次大会(金沢大学)で開催される総会にて、優秀発表賞を授与いたします。会員の皆様におかれましては、今後とも日本認知心理学会大会におきまして数多くの良い発表をなされることをお願いいたします。
2004年 9月 1日
日本認知心理学会優秀発表賞選考委員会委員長
太田 信夫
新規性評価部門
受賞者(所属):高濱祥子・熊田孝恒(産業技術総合研究所)
発表題目:「サイモン課題に及ぼす他者の行為の影響」
選考理由:刺激-反応適合性(S-R compatibility)現象を扱うサイモン課題は,知覚に関わるきわめて認知心理学的な問題である.このテーマを,社会心理学における他者の存在や行為からの影響と結びつけた点が,まず高い新規性を有すると評価できる.社会心理学において主張される他者存在の影響を実験的に裏づけるデータはなかなか得にくいものであるが,本研究は,他者の存在だけでは影響がなく,画面に示される信号に基づき,2人のうちどちらが課題遂行を行うかを指示する共遂行状況で効果が現れる,すなわち「他者の行為により影響が生じる」事実を明らかにした.生じた影響をさらに詳細に検討するため,「直前の試行の刺激-反応適合性」に基く分類へと進めた点も,認知心理学的パラダイムを社会心理学の問題に適応していく道を拓く意味で,新規性を有する分析法と評価できる.
技術性評価部門
受賞者(所属):西野由利恵・安藤広志(ATR人間情報科学研究所)
発表題目:「3次元物体の学習とトップダウン処理に関わる脳部位の特定」
選考理由:3次元物体の視覚表象がヒトの場合脳内のどこに獲得されるのかというきわめて重要な問題を高い技術力を備えた手法でアプローチした研究である。まず彼らは、3次元物体の学習と記憶情報に基づくトップダウン処理という二つの条件を設け、それらの処理に関わる脳部位の特定を目的とし、綿密な実験計画をたて、脳活動の非侵襲計測法を駆使して取り組んだ。データの整理や解釈も客観的に行われており、これからの発展が期待できる。発表も、複雑で難解な内容をわかりやすく解説していた。
社会的貢献度評価部門
受賞者(所属):岡 耕平・三浦利章(大阪大学大学院人間科学研究科・大阪大学大学院)
発表題目:「知的障害の程度の違いが注意配分機能の練習効果に及ぼす影響」
選考理由:本研究はBaddeleyらの考案による二重課題を用いて,知的障害者と健常者の注意配分機能を比較・検討したものである。単独条件課題と二重課題でのパフォーマンスを比較し,前者に対する後者のパフォーマンスの低下率という観点から注意配分機能を分析したところ,知的障害者と健常者では差が認められなかったなどの興味深い結果を得ている。本研究はまだ途中の段階にあり,さらなる綿密な検討が求められるが,認知心理学的な実験方法を用いて,データ収集が困難な知的障害者の注意配分機構の解明を試みるといった研究の着眼点は高く評価できる。さらに本研究は,知的障害者の社会復帰の促進につながる可能性をもつことから,今後の研究の発展が大いに期待される。