第12回日本認知心理学会優秀発表賞

第12回日本認知心理学会優秀発表賞

第12回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ

 日本認知心理学会優秀発表賞規程に基づき,選考委員会において審議を重ねた結果,推薦発表総数67件の中から,以下の6件の発表に,規程に定められた評価部門の優秀発表賞を授与することに決定いたしました.受賞者には第13回大会の総会にて,優秀発表賞を授与いたします.会員の皆様におかれましては,今後とも日本認知心理学会におきまして数多くの優れた発表をなされることをお願いいたします.

2014年12月16日
日本認知心理学会優秀発表賞選考委員会委員長
行場 次朗

新規性評価部門
受賞者(所属):
今回は該当者なし.

 

技術性評価部門
受賞者(所属):
中尾 敬(広島大学)松本知也*(広島大学)森田真智子*(広島大学)清水大輔*(広島大学)吉村晋平*(追手門学院大学)Georg Northoff*(オタワ大学)森信繁*(高知大学)岡本泰昌*(広島大学)山脇成人*(広島大学)
発 表 題 目 :
「幼若期ストレスと内側前頭の活動及び意思決定スタイルとの関連」
発 表 要 旨 :
幼若期ストレス (early life stress; ELS) はうつ病等の精神疾患を発病する危険因子の一つと考えられている.ELSと脳機能との関連については,デフォルトモードネットワーク (default mode network; DMN) 内の機能的結合の程度の低下や, ワーキングメモリ課題遂行時のDMNの不活性化の程度の増加が報告されている.DMNは安静時における超低周波成分の振幅の増加や自己関連課題遂行時の活動増加を示すが, それらのDMNの特徴とELSとの関連は明らかになっていない.そこで本研究では,ELSと安静時及び自己の内的基準による意思決定課題 (色の好み判断) 遂行時の内側前頭前野の活動との関連を検討した.NIRS (near-infrared spectroscopy) のデータから,ELSは,安静時及び色の好み判断時の内側前頭の活動の低下と関連していることが明らかとなった.また, 媒介分析からELSによる内側前頭前皮質の活動低下は, 自己の基準による意思決定が求められる事態においても, 顕著な外的基準によって判断するという意思決定スタイルと関連していることが示された.
選 考 理 由 :
著者らは成人を対象に,自己関連課題を行うときの脳活動をNIRSによって検討した.対象の成人に対し,幼若期のストレスについても質問紙調査が行われた.その結果,幼若期ストレスが高い個人ほど,自己関連課題遂行時の前頭前皮質の活動が低下していることが報告された.自己関連課題は色の好み判断という単純な知覚的課題であり,その成績を脳活動の周波数解析と手際よく結びつける方法は洗練されているものであった.疑問点についても明快な回答がなされた.このような理由により,技術性評価部門の優秀賞に十分に値するものと判断できる.

 

社会的貢献度評価部門
受賞者(所属):
山田祐樹(九州大学)佐々木恭志郎(九州大学・日本学術振興会)三浦佳世(九州大学)
発 表 題 目 :
「法と空間心理学―法廷配置と利き手が生み出す量刑判断バイアス―」
発 表 要 旨 :
わが国の刑事法廷の座席配置は,法壇から見て右側が検察官,左側が弁護人であることが一般的だが,配置が逆転する事例もある.一方,認知心理学では人間が利き手側に位置する対象には肯定的な,非利き手側の対象には否定的な評価を下すことが知られている.本研究では,この空間認知的性質が刑事裁判の量刑判断に影響を与えている可能性について検討を行った.387名の参加者は裁判風景を模した写真を観察後,2種類の裁判シナリオを読み,被告人の量刑を判断した.写真は,通常配置(右:検察官,左:弁護人),逆配置(右:弁護人,左:検察官),統制配置(位置関係は通常と同様だが検察官と弁護人が外向している)の3種類であった.結果として,参加者は利き手側に検察官が存在する配置よりも弁護人が存在する配置の量刑を有意に短く見積もることが明らかになった.このことは,量刑判断が身体特異的な空間情報処理にも依拠することを示唆する.
選 考 理 由 :
日本での刑事法廷の弁護人と検察官の座席配置がほとんど固定している(法壇から見て弁護人は左,検察官は右)状況にある.心理学では,人間の身体特異性仮説において人間は自身から見て左右の空間に独特な価値評価を結びつけ,非利き手側を否定的に評価するということがすでにわかっている.そこで,この理論を裁判における量刑判断にも適用し偏向傾向を検証したものである.実験は裁判風景を模した写真(弁護人と検察官の座席配置3種類)を使い,2つ刑事裁判のシナリオを読んで量刑を判断するものであった.その結果,右利き者は,非利き手側(通常型)の量刑判断が有意に多いという偏向性が認められた.日本での刑事法廷の弁護人と検察官の座席配置がほとんど固定しているという従来見落とされがちな重要なテーマに着手し,貴重なデータが提供されている.この研究結果は現状に一石を投じたものと言える.このことから,本研究が社会的貢献度評価部門優秀賞にふさわしいと判断した.

 

発表力評価部門
受賞者(所属):
永井聖剛(愛知淑徳大学)山田陽平(奈良教育大学)河原純一郎(中京大学)
発 表 題 目 :
「大きな声で大きな動作 − 発生音圧と描画サイズとの適合性 −」
発 表 要 旨 :
刺激の大小や速遅などの物理的性質と運動反応の強弱との間にみられる刺激—反応適合性は,オブジェクトに関する概念的性質に対しても生じることが報告されている(永井・山田・河原,2013年日本心理学会大会).したがって,刺激や運動反応についての性質は抽象化された単純情報次元(例えば,大—小)で共有されていることが示唆される.本研究では,発声と手運動という異なる運動出力間での適合性について検討した.実験では被験者に,大きな声あるいは小さな声を発しながら,小,中,または大の3種類の大きさの円を描画するように求めた.結果から,大きな声を出しているときには小さな声を出しているよりも描画される円が大きくなり,異なる運動反応において運動の強さ/大きさに関する運動−運動適合性が生じることが示唆された.発声と手運動のように異なる運動反応であっても,運動反応の発現に関連する情報は抽象化されたレベルで共通に表現され,相互に影響を与えるものと考えられる.
選 考 理 由 :
刺激と反応の間の空間的適合性については,たとえばサイモン効果として知られる現象がある.それに対して,著者らは,異なる複数の運動を同時に実施するとき,運動反応間で適合性が生じることを明らかにした.この結果は,反応動作が抽象的レベルで表象されているという著者らの仮説を支持する.実験では,声を出しながら円を描画する課題を用いて,大きな声を出すと描く円の大きさが大きくなることを明らかにした.実験結果は,音圧と面積といった異なる次元の属性が,「大きい」といった概念的表象を通して影響を及ぼし合っている可能性を示唆する.本研究結果は,プライミングや身体運動を用いた近年の社会的認知や高次認知の研究成果とも符合し,潜在認知の総合的理解に貢献すると期待される.プレゼンテーションは,映像や音声を効果的に用いるなど,随所に工夫がみられた.斬新な研究成果を論理的にわかりやすく提示した発表内容は,聴衆を十分に納得させる優れたものであった.以上より,本発表が発表力評価部門での受賞にふさわしいものであると判断した.

 

受賞者(所属):
北神慎司(名古屋大学)石井香澄*(名古屋大学)高橋知世(名古屋大学・日本学術振興会)阿見沙妃子*(名古屋大学)
発 表 題 目 :
「ギュッと手を握ると記憶が良くなる?-学習およびテスト前のhand-clenchingがエピソード記憶に及ぼす影響-」
発 表 要 旨 :
Propper, McGraw, Brunyé, & Weiss (2013) は,学習前に右手で,テスト前には左手で,一定時間小さなゴムボールを握りしめる (hand-clenching) ことによって,他の握り方のパターンに比べて,単語の再生成績が向上することを示している.しかしながら,先行研究およびその実験結果に関する問題とし て,統制群と比較して記憶成績が向上しているわけではないという点などが指摘できる.そこで,本研究では,DRMパラダイム (Roediger & McDermott, 1995) を用いて,先行研究の再現可能性に加えて,hand-clenchingが虚再生へ及ぼす影響を検討した.その結果,先行研究の再現可能性が担保されただ けでなく,サンプルサイズの問題をクリアすることによって,hand-clenchingの効果がより強く示されうることが明らかとなった.
選 考 理 由 :
 本研究は,「学習前に右手,テスト前に左手」で小さなゴムボールを握りしめることによって,単語の記憶成績が向上するかどうかを調べたものである.先行研究では,当該の組み合わせで握ることが他の組み合わせで握るよりも記憶成績が優れることを明らかにしているが,学習前とテスト前にボールを持つだけの統制群に比べて有意な成績向上は認められていなかった.本研究では同様の手続きで実験を行い,正再生数に関して統制群との間に有意差を見出し,先行研究の主張をより明確に示すことに成功している.虚再生数については有意差がなく今後の検討課題となったものの,「手を握る」記憶法の有効性を見事に立証した研究と言える.インパクトのある題目,わかりやすい導入,先行研究の不十分な点の指摘,明快な実験結果の呈示とその教育的有用性まで,聴衆によく伝わる発表内容であり,発表力評価部門における優秀賞に十分に値するものと判断する.

 

国際性評価部門
受賞者(所属):
今回は該当者なし.

 

総合性評価部門
受賞者(所属):
有賀敦紀(立正大学)井上淳子*(成蹊大学)
発 表 題 目 :
「希少な物に対する魅力評価の時間的・社会的文脈依存性」
発 表 要 旨 :
人間は希少な物に魅力を感じる(希少性効果).二色のクッキーを用いて対象の希少性を操作した我々の先行研究は,希少性効果が評価時に少数状態にある対象ではなく,それまでに減少した対象の色に基づいて生じることを明らかにした.本研究ではこの知見に基づき,希少性効果の生起要因を特定した.実験1において,特定の色のクッキーを増加させることによって,別の色のクッキーに相対的な希少性を付与したところ,希少性効果は生じなかった.したがって,対象の減少が希少性効果の決定的な生起要因であることが明らかにされた.実験2では,被験者がサクラと二人で課題を行ったところ,対象の減少がなくても,評価時に少数状態にある対象に対して希少性効果は生じた.したがって,他者の存在が希少性効果の生起を促進することが明らかにされた.以上の結果から,商品に対する消費者の魅力形成は希少性が生み出される時間的・社会的文脈に依存することがわかった.
選 考 理 由 :
商品などの対象がもつ希少性は,それに対する魅力評価に影響している.先行研究では,対象の数が減少することで魅力評価が高まること報告している (希少性効果).本研究では,この知見を更に発展させるため,対象の減少を伴わず新たな希少性が付与される場面でさえ,希少性効果が高まるかを検討した.実験の結果,2者に対して数の多いクッキーと,その中に1枚だけ含まれるクッキーが与えられ,後者のクッキーを一方のみが獲得できる場面で,その魅力評価が高まることが分かった.したがって,対象の数の減少を伴わなくても,社会的場面であればその希少性は高まる.我々の日常生活において直面する商品選択に関する心理過程の一端を,シンプルな実験デザインで明らかにする試みが総合性評価部門に相応しいと判断した.

 

受賞者(所属):
佐藤史織(中京大学)河原純一郎(中京大学)
発 表 題 目 :
「完全に課題非関連な顔は知覚負荷に関係なく注意捕捉する」
発 表 要 旨 :
本研究は,従来の研究では交絡していた課題の構えと顔刺激の有無を分離した上で,負荷理論(Forster & Lavie, 2008))が予測するように高負荷条件下で完全に課題非関連な周辺の顔刺激は中央の文字弁別課題の遂行中でも注意を捕捉するかを検証した.負荷理論に一致するのであれば顔の注意捕捉はなくなるか,もしくは減少するはずであった.しかし結果は,周辺に呈示された顔画像は文字弁別課題を妨害した.加えて,この効果は正立顔にのみ観察でき,倒立顔や食べ物画像を使用した条件では観察できなかった.さらに,探索課題のオンセットと顔画像の呈示タイミングという時間的要因を双方が共有しなかった条件でも顔固有の効果が見られた.したがって,顔は観察者の構え,知覚負荷,呈示タイミングに関わらず刺激駆動的に注意捕捉する特殊な刺激であると結論できる.
選 考 理 由 :
本研究は,巧みな実験方法によって「知覚負荷が高いか低いかに関わらず,顔刺激は注意補足する」という事実を確認し,この現象が従来の負荷理論では説明できないことを明確に示したものである.先行研究でも,顔刺激には負荷理論があてはまらないと言われてはいたが,課題に対する構えと顔刺激の存在が完全に分離できていないという方法論上の瑕疵があり,確たる結論には至っていなかった.著者らは,これらを完全に分離するという巧みな方法を考案して実験を行い,「知覚負荷の高低によらず,顔刺激は注意を補足する」という現象の存在を確証した.さらに,倒立顔の画像や食べ物画像を用いた実験を積み重ねることで,この現象が確かに顔刺激に特有のものであることを明確に示した.巧みな方法を考案し,実験を重ねて明確な結果を得ることによって,注意補足や負荷理論の研究に寄与したという点で意義のある研究であり,総合性評価部門での受賞に十分に値するものと評価される.

(注:*は2014年12月16日現在での非会員を示す.規程により,非会員の方は受賞 の対象となりませんが,本年度内に会員になれば受賞資格が与えられます. )

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