日本認知心理学会公開シンポジウム
「認知心理学のフロンティア -こころの常識と偏見を超えて-」のご報告
人間の心に関する認知心理学的なアプローチは、医療、教育、司法、防災、産業
など様々な現場から緊急の課題に応える意味でますます重要視されています。認
知心理学会では、このたび認知心理学的アプロローチの現在を広く社会に理解し
ていただくために、平成26年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成
果公開発表(B)の助成をうけて、「認知心理学のフロンティア:こころの常識
と偏見を越えて」と題して公開シンポジウムを本年10月18日(土)に京都女子大
学発達教育学部で開催いたしました。シンポジウムには一般社会人、大学学部
生、院生、研究者など合計80名の、幅広い層からの参加を得ました。
第一部講演会「認知心理学の新展開」では、各分野から3人の著名な研究者に話
題提供をして頂きました。
講演1 「犯罪捜査の認知心理学」越智啓太(法政大学教授)
講演2 「防災の認知心理学」邑本俊亮(東北大学教授)
講演3 「発達プロセスの認知脳科学的解明」 乾敏郎(京都大学教授)
はじめの二つの講演は犯罪捜査や、防災の現場に認知心理学がどのように生か
されているのか、また活用されようとしているのかを中心に話されたものであ
り、認知心理学の応用可能性や有用性について、強く、かつわかりやすく紹介する
ものでした。最後の講演は、発達障害を中心に認知心理学が脳科学と密接な連携
を取ることによって、新たな展開を示す研究の最前線を報告したものでした。こ
れらを受けてフロアーからも熱心な質問が相次ぎ、活発な議論がなされました。
第二部の公開参加型ゼミでは、「社会に貢献する認知心理学」をテーマに4つの
話題提供が行われました。ゼミ1,2とゼミ3,4は別の部屋で並行して行わ
れ、比較的少人数の大学のゼミの体験型授業のような形式でした。
ゼミ1 「お客様の『心』をつかむ商品開発」熊田孝恒(京都大学教授)
ゼミ2 「他者のこころの認知と集団規範の生成:『暗黙のルール』はいかにし
て生まれるか」村本由紀子(東京大学准教授)
ゼミ3 「時間的展望から死について考える」下島裕美(杏林大学准教授)
ゼミ4 「感情と身体空間」佐々木恭志郎(九州大学 学術振興会特別研究員)
いずれのゼミでも、講演会よりもコンパクトな教室でしかもより長い時間をとっ
て実施されたために、講師のお話の途中でも気軽にたくさんの質問がされ、また
終了時間ぎりぎりまで熱心な討議が行われ、より深い理解と知識共有がなされた
と思います。
最後にアンケートを実施したところ、様々な感想が寄せられました。以下に1
部の例をあげます。
・「学術的知識だけでなく、先生方の現場感覚・体験が組み込まれていたのが
新鮮で、楽しく聞かせていただきました」
・「認知心理学のあらゆる話が聞けてとても面白かった・・・『こんな研究が
あるんだ』と驚くことが多かった」
・「フロンティアの題にピッタリとくる、本当に興味深く、おもしろいお話が
たくさん聞くことができました。参加できたことが嬉しいです。認知心理学はや
はりおもしろいですね」
他にも多くの高く評価する感想が寄せられました。なお、今回の発表は小冊子
としてまとめられ、認知心理学会のHP上に掲載される予定です。
本学会はこれからも、実験室の中で行われた研究、あるいは社会現場でなされ
た研究など、面白く有益な知見を広く社会に還元するために、様々な形で発信し
ていきたいと思います。今後とも日本認知心理学会の活動をご支援くださいます
ようお願いいたします。
認知心理学会理事長
行場次朗