日本認知心理学会会員のみなさま,
複数のMLにお送りしておりますので,重複の際はどうぞご容赦ください.
この度,日本認知科学会の学会誌「認知科学」で,「合理性をめぐる認知科学」 という特集号を組むことになりました.
下記の通り,論文を受け付けておりますので,是非多くの皆様からのご投稿をお 待ちしております.
詳細につきましては,文中にあります URL をご参照ください。
【「認知科学」特集(第29巻第3号・2022年9月号)論文募集のお知らせ】
(詳細は認知科学会 Web サイト https://www.jcss.gr.jp/news/jcss/entry-387.html を参照願います)
特集タイトル 合理性をめぐる認知科学
掲載予定巻号 2022年9月号(Vol. 29 No.3)
担当編集者 本田秀仁(追手門学院大学)・ 眞嶋良全(北星学園大学)
企画趣旨
認知科学では,「合理性」というキーワードで,様々な議論が展開されてい る.例えば,合理的経済人(ホモ・エコノミクス)として人間を捉え,合理的と される規範との整合性に関する議論(規範的合理性),環境の中での適応的な生 存,行動,または認知を重視する議論(適応的合理性,Hertwig et al., 2019; 進化的合理性,Stanovich, 1999; 生態学的合理性,Todd et al., 2012),種々 の環境および認知の制約を考慮に入れた上で,その制約の下で一定の水準を達成 しているか否かについての議論(限定合理性,Simon, 1955; 資源合理性, Griffiths et al., 2015),人間の認知が直面する問題に対して,どのような計 算処理がなされ,解決しているかについての議論 (計算論的合理性,Gershman et al., 2015; ベイズ的合理性,Oaksford & Chater, 2007) などがある.
合理性に関する議論は,認知の本質に迫る発端となりうる.例えば,規範と実 際の行動の間に存在する系統的なギャップについて解明を試みるヒューリス ティック・バイアスアプローチ(Tversky & Kahneman, 1974)は,思考の二重過程 理論に繋がり,多数の理論的,また応用的側面からの研究を生み出した.近年で は,二重過程理論で長く支配的であった,最小限の認知資源で起動するタイプ1 過程に由来した初期解を,より多くのリソースを要するタイプ2過程によって合 理的な解へと修正するというデフォルト介入 (default interventionist) 論と は異なるプロセスを考える理論(例,論理直観モデル,De Neys, 2012; 三段階 モデル,Pennycook et al., 2015) も提唱されている.この新しい理論群では, タイプ1過程で生じた複数の直観解(この中に基本的な規範的知識から導かれた 「直観的規範解」が含まれる)の間で生じる葛藤の解消をタイプ2過程の機能と 位置づけることで,従来の理論では説明できない諸現象の説明を試みている.例 えば,操作的にタイプ2過程を誘導すると,直観的規範解から誤った解へと変更 してしまう事が生じる (De Neys, 2018) というのは典型的な例である.また, 現実世界の思考に目を向けると,党派性バイアスによる誤った判断では,むしろ 分析的思考が対立意見の過小評価に繋がることも明らかになっている (Kahan, 2013).特に政治が関わる領域においては,長らく集団分極化による社会の分断 が問題となっており,冷静かつ客観的な思考に繋がるはずのタイプ2過程が,逆 に分断の加速を招く,すなわち非合理的な結果を招くことが示唆されている.
以上の議論では,思考,推論,判断,意思決定に代表される高次認知に関するも のが多いが,合理性の議論は高次認知の専売特許ではない.例えば,判断や意思 決定におけるバイアスは,しばしば知覚に関する錯覚になぞらえられることが多 い (Kahneman, 2003).近年,この「錯覚」アナロジーについて,大変興味深い 議論が行われている (Felin, Koenderink, & Krueger, 2017; Chater et al., 2018).このような議論は,判断や意思決定,そして知覚という一見すると全く 異なる認知的処理を行っているプロセスであっても,合理性という共通した視点 から捉えることによって,それぞれのプロセスについての深い洞察が得られるこ とを示唆している.
また近年のAIブームは,認知の合理性の議論に対して,新たな展開につながる可 能性がある.例えば,“シンギュラリティ”といった用語を頻繁に見かけるよう に,AIの“知性”は,人間の知性を考える上で比較対象となることが多い.大変優 れた”知性”を有する現代のAIの性質を考えると,人間は時間(限られたデータに しかアクセスすることができない),計算(人間はごく限られた計算しかできな い),コミュニケーション(コンピュータの行うような分散処理,並列処理を可 能にするようなデータ転送ができない)といった制約がある.このような制約 は,表面的には人間の認知の合理性を妨げるもののように思える.しかし,人間 はこれらをどのように解決しているのかを分析することで(帰納バイアス,サブ ゴールの設定,過去経験からの部分的解決法の活用,文化進化,など),人間の 知性の特性が理解でき (Griffiths, 2020),ひいては認知の合理性についてもよ り理解が深まることが期待される.
ここでは,合理性にまつわるいくつかの議論を例として挙げたが,これら以外 でも,「合理性」にまつわる問題は多く存在し,認知科学における重要なキー ワードになっているといえよう.そこで,『合理性』から認知を考える特集号を 企画した.日本語または英語で書かれた研究論文,展望論文,短報論文,あるい は資料論文を募集する.認知の合理性について新規な研究成果を含むものであれ ば,実験研究,計算機シミュレーション,フィールドワーク,理論的考察等,内 容を限定せずに歓迎する.
投稿資格
認知科学の研究者であれば,誰でも投稿できる(査読・掲載に関わる費用等に ついて,詳しくは『認知科学』の投稿規程を参照する https://www.jcss.gr.jp/contribution/journal/submission.html).
本特集では,まずプロポーザルの提出を求める.プロポーザルでは,論文の種類 (研究論文,展望論文,短報論文,あるいは資料論文),1000字から3000字程度 のプロポーザルの提出を求める.プロポーザルに対して,担当編集者が簡単な査 読を行い,プロポーザルの採否を決定する.プロポーザルが採択された場合は, 期日までに原稿の提出を求める.なお,投稿する原稿は,『認知科学』の投稿規 程,執筆要領に従うものとする.
提出先
jcss.rationality[at]gmail.com [at]を@に置き換えること.
(提出後,1週間以内に,受領確認のメールを送付する)
原稿は,投稿査読システムを用いて投稿する.投稿方法は,プロポーザルの採択 通知の中で知らせる.
スケジュール
2021年10月15日(金):プロポーザル締切
2021年10月29日(金):プロポーザルの採択通知と執筆依頼
2021年12月10日(金):原稿投稿締切
2022年1月28日(金):査読結果返送
2022年3月25日(金):修正原稿提出締切
2022年4月28日(木):再査読結果返送(採否決定)
2022年5月27日(金):最終原稿提出締切
2022年9月1日(金):「認知科学」第29巻 第3号掲載