日本認知心理学会公開シンポジウム「TECHが切り拓く心の科学」ご報告
シンポジウムでは,企画者である佐々木恭志郎氏(関西大学)が,公開シンポジウムの企画趣旨を説明した後,3名が講演を行った。
まず米満文哉氏(芝浦工業大学)は,「人間らしさ”の落とし穴:認知心理学から読み解くヒューマノイド受容の壁」と題してエージェント認知に関する研究を紹介した。不気味の谷現象を軸に,人間らしいエージェントに対する心理的反応やその受容の困難さ,さらにはその根底にある認知的メカニズムを概観する内容であった。次に近藤亮太氏(東京大学)は,「身体はどこまで変えられるのか:VRを活用した身体錯覚研究とその未来」と題して,VR空間内での身体性に関する研究を紹介した。VRを活用したアバターへの身体所有感研究を中心に,アバターが透明人間化した場合や身体が分裂した場合など,ユニークな事例を示した。最後に元木康介氏(東京大学)は,「生成AI × 心理学:研究実践フレームワークとクロスモーダル研究への展開」と題して,近年の心理学と生成AIの関わりについて講演を行った。生成AIを心理学研究に活用する方法を多角的に検討し,特に感覚間協応をトピックとした研究事例を紹介した。
本シンポジウムには,高校生や一般企業の方を含む日本認知心理学会会員以外の参加者にも多数ご参加いただき,対面で約20名,オンラインで約100名の参加があった。シンポジウム中は,技術革新が心の科学に与える影響について,幅広い観点から活発な議論が行われた。本シンポジウムを通じて,最新のテクノロジーと認知心理学の接点に関する理解を参加者間で広く共有することができたと考えている。