日本認知心理学会公開シンポジウムの報告

2017年11月25日の13時半から17時まで、九州大学箱崎文系地区において、公開シンポジウム「豊かに、良く生きるための認知心理学」が開かれました。参加者は70名でした。ご参加を頂いた方のうち約半数は60歳前後の一般市民の方であり、今回のシンポジウムの特徴的な点だったと思います。これはシンポジウムの開催にあたって九州大学大学院人間環境学府の協力を得て、福岡市政だよりで告知して頂いたことによる効果であると思われます。話題提供の先生方は、国内外の第一線で活躍する、認知心理学をご専門とする3名の先生でした。概略とまとめは以下の通りです。

福岡大学の大上渉先生には、犯罪捜査に役立つ認知心理学の知見について解説を頂きました。記憶の基本的な仕組みと、ポリグラフ検査の実際の使われ方について、科学捜査研究所のご勤務の経験を活かした話題が前半に紹介されました。さらには最近取り組まれている、数多くの犯罪事例から共通する傾向を見いだす数量的分析についてもご紹介を頂きました。

西南学院大学の安藤花恵先生には、ご自身も大学時代に活動されていた演劇について、実証的研究の視点から解説を頂きました。演劇は比較的新しい芸術のカテゴリーであることの紹介から始まり、縦断的で詳細なインタビューと質問紙調査に基づいて、初心者・中級者・熟達者の演劇に対する認識や態度の違いを明らかにされました。また、演劇を通じた教育の可能性についてのユニークな取り組みもご紹介を頂きました。

京都大学の積山薫先生には、加齢による認知機能の変化および脳機能・構造の変化について、幅広い神経科学的データに基づき解説を頂きました。認知症の基礎知識、疫学的な知見に加え、先生が近年取り組まれた脳機能の可塑性の研究、および高齢者の脳機能の可塑性に関する挑戦的な研究についてご紹介を頂きました。

3名の先生からの話題提供の後、会場にお越し頂いた方々を交えて、多くのコメントを頂くとともに質疑応答がなされました。議論を深めるには明らかに時間が足りませんでしたが、認知心理学の社会での役立ち方については、一般の方々に広く周知する良い機会となったように感じます。洞察に富み、熱のこもった話題提供を頂いた先生方、およびご参加頂いた学会員と一般の方々にお礼を申し上げます。

日本認知心理学会将来計画委員 光藤宏行