2025年度日本認知心理学会優秀論文賞

日本認知心理学会では,2021年度より,日本認知心理学会優秀論文賞を設けています.2022年度からは,優秀論文賞のもとに特別賞,奨励賞の2種類が設けられています.
機関誌「認知心理学研究」の前年度に完結した巻に掲載された原著論文と展望論文の中から,優秀論文賞選考委員会が,規程に基づき,認知心理学の発展において特に大きな貢献を果たした論文を選考し,優秀論文特別賞,優秀論文奨励賞として顕彰いたします.

選考経過
2025年度の優秀論文賞選考委員会は,規程により,常務理事である清水 寛之氏(委員長),理事である西崎 友規子氏(副委員長),理事長である梅田 聡氏,編集担当常務理事である森田 愛子氏(機関誌等編集委員会委員長),および理事である浅野 倫子,有賀 敦紀,今井 久登,上田 祥行,米田 英嗣,富山 尚子,外山 紀子,中尾 敬,福井 隆雄,吉崎 一人の各氏,合わせて14名で構成された.ただし,各委員が利益相反のある論文については評定を行わなかった.
対象となった論文は,「認知心理学研究」第22巻1号,2号に掲載された9編であった.審査は日本認知心理学会優秀論文賞規程および優秀論文賞選考手続きに則って行い,以下の4編を優秀論文賞とした.日本認知心理学会第24回大会において授賞式の予定である.

2025年度認知心理学会優秀論文特別賞

「日本語無意味語におけるインアウト効果の検討」
大竹 裕香, 山本 健太郎, 布目 孝子, 山田 祐樹

本研究は,子音の調音点(子音発音時に空気の流れが妨げられる位置)が前から後ろに移動する単語の方が,後ろから前に移動する単語よりも好ましく判断されるという「インアウト効果」が,日本語話者においても成り立つかどうかを検討したものである.これまで,印欧語族でもアルファベット表記でもない言語圏での検討が少ない中,日本語の音韻ルールに従った無意味語を用いて実証した本研究は,音象徴研究における貴重な知見を提供しており,学術的価値が高い.序論は簡潔でありながら,先行研究が過不足なく整理・紹介されている.実験では,予備実験を踏まえて刺激プールを構築し,第1実験の結果に基づいて他の説明可能性を除外するために第2実験を実施するなど,論理的に明快かつ丁寧に研究が進められている点が高く評価された.本研究を通じて,インアウト効果の生起機序に迫る新たな示唆が得られた点も注目に値する.以上の理由から,本論文は優秀論文特別賞にふさわしいとされた.

2025年度認知心理学会優秀論文奨励賞

「解釈バイアスと解釈の柔軟性および反すうの関連」
根橋 妙恵, 松本 昇

本論文は,抑うつ症状に関わる解釈バイアスと解釈の柔軟性を測定する感情的BADE課題(Emotional Bias Against Disconfirmatory Evidence task)の日本語短縮版を作成し,反すう及び抑うつ症状との関連を明らかにしたものである.先行研究の課題設定上の問題に対応した妥当な手続きを経て,解釈バイアスが悲観的な考え込み(Brooding)に,柔軟性の欠如が反省的熟考(Reflection)に選択的に関連することを示した点は学術的価値が高い.日本語で利用可能な測定課題を提供した貢献も大きく,今後の一般化可能性の検討と発展が期待されるため,奨励賞にふさわしい論文であると評価された.

「行為の意図が実物の道具を操作するまでの時間に与える効果」
武重 百香, 郷原 皓彦, 入戸野 宏

道具に対して左右いずれかの手で反応を求める二肢選択反応時間課題においては,道具の持ち手の向きが反応時間に影響を及ぼすことが広く知られている.従来,その要因として,道具に固有のアフォーダンスと,形状に基づく知覚的顕著性という二つの効果が指摘されてきた.本論文は,道具の提示方法および反応測定手続きを精緻に工夫することにより,これら二要因を独立して検証することに成功している.とりわけ,実験手法の構築に注がれた技術的努力は高く評価される.実験の結果,特定の行為を意図した場合にのみ,アフォーダンス知覚に基づく持ち手効果が生起することが実証的に示された.画像刺激に依存しない生態学的妥当性の高い方法論を採用し,理論的に対立してきた問題に正面から取り組んだ本研究は,認知心理学分野の知見を整理・拡張する独創的な貢献として,奨励賞にふさわしい論文であると評価された.

「文章黙読時の内声化の程度と眼球運動の関連」
梁 葉飛, 有馬 多久充, 森田 愛子

黙読は日常的な行為であると同時に,研究テーマとして読解支援や教育実践への応用可能性を有する.しかし観察可能な行動でないために実証が容易でないといった方法論上の問題を抱えている.そのような背景のもと,文章を黙読する際の内声化の程度を,眼球運動と関連づけて実証的に検討したのが本論文である.本論文の特筆すべき点は,第一に,黙読を眼球運動という観察可能な行動と関連づけることによって実験したこと,第二に,先行研究の手続きを部分的に踏襲することで理論的整合性を保ちながら丁寧に議論を進めている点である.一方で,内声化頻度の測定が自己報告に全面的に依拠していることをはじめとした課題もいくつか残されているものの,それらの課題は黙読や内言といったテーマそのものが持つ方法論上の困難性に起因するとも言えるものであり,論文の価値を必ずしも大きく損なうものではない.これらを総合的に検討した結果,奨励賞としてふさわしい論文であると評価された.
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