会員から推薦された研究と、過去に候補となった研究も含めて、選考委員会が独創賞規約に従い慎重に選考を進めた結果、2023年度の独創賞は、浅野倫子氏(東京大学文学部准教授)と横澤一彦氏(日本国際学園大学経営情報学部教授)が中心となって行われた「日本語における色字共感覚研究」に授与することが決まりました。授賞理由は以下の通りです。

 この研究は、3つの書記体系(平仮名,片仮名,漢字)を有する日本語を用いて、日本人の色文字共感覚者を対象として、共感覚色に影響を与える要因とプロセスを一連の実験的研究により詳細に検討したものです。その結果、アルファベットを中心とした欧米の色文字共感覚研究の知見とは異なった様々な特性を持つことが明らかにされました。例えば、アルファベットでは字形や文字順序が共感覚色に影響するのに対し、平仮名やカタカナでは字形ではなく音韻や順序が共感覚色に強く作用し、漢字でも音韻や意味がより大きく寄与することがわかりました。これらの特性は、日本語の特徴である仮名と音との関係が固定していること、文字体系の学習時期に違いがあること、表音文字と表意文字を有することなどからもたらされるものとして考察がなされました。さらにこれらの知見をベースに、共感覚色は文字修得の過程で間接的にもたらされ、文字の弁別性を高め、マーカーとして文字習得を助ける働きをするという独自の仮説が提案されました。この仮説はインパクトを持ち、既習得の文字の共感覚色が新規に学ぶ文字に汎化することを示す研究や、多言語における色文字共感覚の国際比較など、複数の後続する研究を刺激し続けています。

選考の際、主な対象とした論文は以下の通りです。

Asano, M., Takahashi, S., Tsushiro, T., & Yokosawa, K. (2019). Synaesthetic colour associations for Japanese Kanji characters: From the perspective of grapheme learning, Philosophical Transaction of The Royal Society B, 374:20180349.
Asano M. & Yokosawa, K. (2013). Grapheme learning and grapheme-color synesthesia: Toward a comprehensive model of grapheme-color association, Frontiers in Human Neuroscience, 7:757.
Asano, M. & Yokosawa, K. (2012). Synesthetic colors for Japanese late acquired graphemes, Consciousness and Cognition, 21, 2, 983-993.
Asano, M. & Yokosawa, K. (2011). Synesthetic colors are elicited by sound quality in Japanese synesthetes, Consciousness and Cognition, 20, 4, 1816-1823.

 なお、日本認知心理学会第22回大会において、独創賞受賞講演が行われる予定です。

独創賞選考委員会
委員長 行場次朗