『認知心理学研究』第3巻 第1号

『認知心理学研究』第3巻 第1号(平成17年8月)

  • 表情の瞬間的変化の認知(織田朝美・向田 茂・加藤 隆)

  • 視聴覚の時間的相互作用に対する空間一致性の影響(本郷由希・喜多伸一)

  • 記憶に及ぼす覚醒度の効果は快・不快感情によって異なる:覚醒度説への反証(野畑友恵・越智啓太)

  • 就学前期のカテゴリー情報の利用:計数課題における対象のカテゴリー化を通して(高田 薫)

  • 再認の背景色文脈効果におよぼす手がかり過負荷の影響(漁田武雄・漁田俊子・岡本 香)

  • 既知顔と未知顔の記憶表象の差異:内部特徴と外部特徴の示差性を操作した画像選択課題(平岡斉士)

  • 素性を利用した文の意味の心内表現の探索法(中本敬子・黒田 航・野澤 元)

  • 話し合う2人の目撃者の性別が記憶の再生率に及ぼす影響(松野絵里子・守 一雄・廣川空美・浮田 潤)

  • ジェスチャー頻度と認知スタイル(言語化-視覚化)の関係(荒川 歩・木村昌紀)

  • 複数桁数の大小判断における上位2桁処理モデルの提案(島田英昭)

  • <展望> 潜在記憶現象としての単純接触効果(生駒 忍)

  • <資料> 目撃直後の自由再生は情報源誤帰属を予防する:出来事の情動性の効果(大沼夏子・箱田裕司・大上 渉)

  • <独創賞> 第1回日本認知心理学会独創賞選考結果

  • <会員の広場> 日本認知心理学会第3回大会報告

  • <会報>

    日本認知心理学会第3回大会報告

    日本認知心理学会第3回総会報告

    2004年度決算

    2005年度予算

    2005年度事業計画

    日本認知心理学会感性学研究部会発足のお知らせならびに参加のご案内

    日本認知心理学会 優秀発表賞規程

    日本認知心理学会 独創賞規程

    「認知心理学研究」 編集規程

    「認知心理学研究」 執筆・投稿規程

    「認知心理学研究」 投稿倫理規程

 

 

Abstract

表情の瞬間的変化の認知

織田朝美・向田 茂・加藤 隆

本研究では,瞬間的に変化する表情を人がどの程度正確に認知できるか,また瞬間的な表情変化に対してどのような情動的反応を示すかについて検証した.実験刺激には,途中で瞬間的に表情が変化する動画を用い,動画全般から受ける好意度の評定と,瞬間的に変化する挿入表情の分類判断を行わせた.途中の表情変化の呈示時間を530ミリ秒,330ミリ秒,200ミリ秒, 130 ミリ秒へと減少させたが,挿入表情が笑顔の場合に,怒りや悲しみの場合に比べて高い好意度評定値を示し,瞬間的な表情変化への情動的反応が認められた.一方,挿入表情が笑顔と怒りの場合には,200ミリ秒までは高い分類成績を示したが,変化速度が130ミリ秒に減少すると,怒りの分類成績が低下した.表情変化の時間が200ミリ秒程度あれば,表情の変化を認知できるといえるが,表情認知の容易性における3表情の差異が何に起因するかについてさらなる検討が必要である.

 

視聴覚の時間的相互作用に対する空間一致性の影響

本郷由希・喜多伸一

視覚的時間順序判断に聴覚が及ぼす影響を,視覚刺激と聴覚刺激の左右に関する空間一致性に注目して調べた.視覚刺激を短い時間間隔をおいて呈示し,その前後に聴覚刺激を呈示した.第1実験では,視覚的時間順序判断の能力が,視覚刺激と聴覚刺激が空間的に一致している場合には良くなるが,視覚刺激と聴覚刺激が空間的に不一致な場合には悪くなることが示された.この成績変化は視聴覚刺激の時間間隔(AV-SOA)が640 msという長い条件になっても残った.第2実験では,こういった成績変化に対して,視覚刺激に先行する聴覚刺激の方が,後続する聴覚刺激よりも,より強い影響を与えていることが示された.これらの実験結果は,視覚的時間順序判断に対する聴覚の優位性に対し,空間一致性が影響することを示すものである.

 

記憶に及ぼす覚醒度の効果は快・不快感情によって異なる:覚醒度説への反証

野畑友恵・越智啓太

本研究は,記憶における感情の質と覚醒度の影響について検討することを目的として行われた.実験1では,被験者は,写真スライドを見て,それぞれのスライドについて感情の質,覚醒度,そしてスライドの説明しやすさについて評定した.スライドは,感情の質と覚醒度の感情次元において幅広いものが使用された.スライド提示直後と1カ月後に,被験者には偶発記憶テストが与えられ,覚えているスライドについて報告させた.その結果,直後,遅延のどちらの記憶テストにおいても,快感情を生じさせるスライドでは,低覚醒スライドが高覚醒スライドよりも多く再生され,不快感情を生じさせるスライドでは,高覚醒スライドが低覚醒スライドよりも多く再生されることが示された.実験2では,刺激や手続きを改善し,再度この現象について検討した.その結果,実験1と同様な結果が得られた.よって,記憶における覚醒度の効果は,感情の質によって異なることが考えられた.

 

就学前期のカテゴリー情報の利用:計数課題における対象のカテゴリー化を通して

高田 薫

本研究では,異なるカテゴリーに属する対象を数える際に,どのようにしてカテゴリー情報を利用しているのかについて検討された.研究1から研究4では,Gelman & Tucker(1975)における実験と同様に,5歳児と6歳児に対して2つのカテゴリーに属する対象を数えるよう求めた.その結果,どちらの年齢でも,研究4を除いてすべての対象を一括して数える傾向にあり,研究1から研究3と研究4の違いは教示であった.研究1から研究3と研究4の結果を比較することにより,“ここにあるの数えて”という教示が異なるカテゴリーを無視することに影響を与えていることが議論された.研究5では,文脈情報がカテゴリー情報の利用に影響を与えているのかどうかについて検討するために,5歳児と6歳児に対して,5体のぬいぐるみに果物を配る課題状況で,3種類の果物(いちご,ぶどう,みかん)と1種類の野菜(大根)とが与えられた.6歳児の多くは,カテゴリーごとに数えたのに対して,5歳児では,数えるときにカテゴリー情報を利用していたものの,すべての対象を一括して数える傾向にあった.これらの結果から,6歳児は“何を数えるのか”を決めるのにカテゴリー情報を利用しているが,5歳児は与えられた対象すべての数を正確に数えるために利用していることが示された.

 

再認の背景色文脈効果におよぼす手がかり過負荷の影響

漁田武雄・漁田俊子・岡本 香

本研究は,3つの実験を通して,学習時と同じ背景色文脈下で再認をテストする条件が,学習時に提示されなかった文脈下でテストする条件よりも,良い単語再認成績を示すか否かを調べた.本研究の被験者は,総数120名の大学生であった.さらに本研究は,項目強度の規定因のひとつである提示速度の効果と背景色文脈効果の間に交互作用が生じるか否かも調べた.各被験者は,40個の単語(実験1),あるいは36個の単語(実験2と3)を学習した.各単語は1.5秒/語あるいは3.0秒/語の提示速度で提示した.さらに,各単語は2種類の背景色文脈(実験1),あるいは6種類の背景色文脈(実験2と3)のいずれかのもとで提示した.再認テストでは,学習した単語(ターゲット)と同数のディストラクターを混ぜ合わせた.実験1と2は学習セッションの直後にテストし,実験3は5分間の遅延期間後にテストした.実験1では,再認の背景色文脈効果を見いだせなかったが,実験2と3では有意な文脈効果を見いだした.文脈効果と提示速度効果の交互作用は有意でなかった.最後に,本研究結果の意義について考察した.

 

既知顔と未知顔の記憶表象の差異:内部特徴と外部特徴の示差性を操作した画像選択課題

平岡斉士

本研究では,既知顔と未知顔の特性の差異を,顔の内部特徴と外部特徴の分析を通じて検討した.実験では,既知顔および未知顔をターゲットとし,示差性を操作した複数の刺激画像の中から“最もその人らしい顔”を選択する課題を用いた(画像選択課題).選択用の刺激として,オリジナル画像の部位(内部特徴・外部特徴・全体)ごとに,オリジナル画像と平均顔との示差性の差異を10%間隔で操作した画像を用いた.選択用画像は,各部位ごとに,オリジナル画像(100%),示差性を平均化した画像(50~90%)と誇張した画像(110~150%)であった.実験1では,既知顔について,画像選択課題を行った.その結果,内部特徴の示差性を操作した条件(内部操作条件)では,外部特徴の示差性を操作した条件(外部操作条件)に比べて,示差性を高く操作された画像が選択された.実験2では,未知顔について画像選択課題を行った.その結果,いずれの部位の示差性を操作した条件でも,選択された画像の示差性操作率に差異はなかった.結果より,既知顔の内部操作条件では,内部操作条件よりも,示差性の高い画像が選択されたことから,既知顔の内部特徴の記憶表象は,外部特徴に比べて,示差性が誇張された表象であると考えられた.一方,既知顔の外部条件および未知顔では,選択された画像の示差性操作率に差異がなかった.以上より,既知顔と未知顔の記憶表象の差異は,内部特徴と外部特徴の示差性の誇張の有無にあると考えられた.

 

素性を利用した文の意味の心内表現の探索法

中本敬子・黒田 航・野澤 元

本研究では,文の意味を意味素性の束として特徴づける新しい手法を提案する.手法の説明のため「襲う」を例に取り上げた.第一段階では生コーパスにおける「襲う」の用例を収集し,FrameNet(e.g., Fillmore et al., 2003)の方法に基づきコーディングし,理解可能な「状況」に対応する15の意義を特定した.第二段階では15の意義を区別するのに十分な意味素性を特定した.これらの妥当性を検証するため,第三段階では2つの実験課題を実施した.意味素性評定課題では「YがXに襲われた」形式の文で記述された状況に「被害の受け手は生物である」などの素性がどの程度当てはまるかの評定を,カード分類課題では同じ文を自由に分類するよう求めた.多変量解析の結果,意味素性評定課題は言語学者によるコーパス解析と一般日本語話者のカード分類の結果をよく予測することが示された.これは本稿が提案する素性評定課題が文の意味の概念構造を探るのに有効な手法であることを示唆する.

 

話し合う2人の目撃者の性別が記憶の再生率に及ぼす影響

松野絵里子・守 一雄・廣川空美・浮田 潤

本研究の目的は,話し合う二人の性別の組み合せにより,目撃した出来事の記憶の再生に影響があるかどうかを検証することであった.実験は,MORI technique(Mori, 2003)を用い,二人の被験者に気付かれること無く,同じスクリーンに細部が異なる二つの映像を提示して行った.被験者は48名の大学生で,男性群8組,女性群8組,混合群8組の3つの組み合せに分類した.課題は,被験者が二人一組で,それぞれ偏光サングラスをかけ,同じスクリーンに映し出された出来事を記憶し,再生することであった.映像の提示直後に,個別に何を見たのかを再生させ(直後再生),その後二人で話し合いをさせて共通の記憶再生をさせた(話し合い後再生).さらに一週間後,同じ組み合せの被験者を実験室に呼び,個別に記憶の再生をさせた(一週間後再生).結果は,女性群の話し合い後と一週間後の再生率が有意に上昇していた.男性群は,話し合い後の再生率のみ直後再生率よりも上昇した.混合群の3つの再生率には変化が見られなかった.

 

ジェスチャー頻度と認知スタイル(言語化-視覚化)の関係

荒川 歩・木村昌紀

認知スタイル(Verbalizer-Visualizer)とジェスチャー頻度の個人差の関係が分析された.大学生(35ペア)が,事前に閲覧した映像を対面・非対面条件において互いに説明する実験に参加した.その後,彼らは,Verbalizer-Visualizer Questionnaire(VVQ)に回答した.実験参加者が説明している間のジェスチャーはビデオテープに録画され,表象的ジェスチャーとビートジェスチャーとがカウントされた.その結果,VVQ高得点者は,非対面条件に比べて,対面条件においてより多くの表象的ジェスチャーを行っていた.しかし,VVQ低得点者は,両条件において,表象的ジェスチャーの頻度に違いは認められなかった.認知スタイルや対面・非対面条件はビートジェスチャーには影響していなかった.このことから,表象的ジェスチャーの頻度に影響を与える個人内要因は,状況(対面・非対面)によって異なると考えられる.

 

複数桁数の大小判断における上位2桁処理モデルの提案

島田英昭

本研究の目的は,複数桁数の大小判断過程を検討することであった.被験者は,2桁同士,3桁同士,4桁同士の数の大小を判断することを求められた.実験1と2では,上位から2, 3, 4桁目の適合性を操作した.最上位桁のみで判断が可能な数の組に対して分析した結果,有意な適合性効果は2桁目のみにみられ,3, 4桁目にはみられなかった.実験3では,最上位桁が等しいダミー試行を除き,さらに最上位桁のみで判断が可能であることを被験者に教示した.その結果,2桁目の適合性効果量が減少した.以上の結果から,最上位桁が異なる桁の大きさが同じ複数桁数の大小判断では2桁目までが並列処理され,2桁目の処理には2桁目が判断に必要であるかどうかについてあらかじめ認知することが重要な役割を果たすことが示された.

 

<展望> 潜在記憶現象としての単純接触効果

生駒 忍

ある対象への反復接触がその対象への好意度を高めるという単純接触効果は古くから知られている現象である.単純接触効果は潜在記憶現象であり,実験変数,被験者変数,推計学的独立性において顕在記憶から乖離を示す.一方で,単純接触効果と直接プライミング効果との間には相違も見られる.知覚的流暢性誤帰属説の妥当性,古典的条件づけとの関係,構造的単純接触効果の位置づけ,個人差といった論点について概観し,今後の研究の方向性について論ずる.

 

<資料> 目撃直後の自由再生は情報源誤帰属を予防する:出来事の情動性の効果

大沼夏子・箱田裕司・大上 渉

本研究は,情報源の誤帰属の発生を,出来事直後の自由再生が抑えることが出来るかどうか調査した.60名の参加者の半分が情動的にストレスフルなビデオを,残り半分が中性的なビデオを見た.ビデオを見た直後,参加者はビデオの内容についての自由再生を行った.その後,参加者はビデオの中の詳細についての誤導情報を含んだ質問紙に回答した.その2日後に,参加者は情報源モニタリングテストに回答した.そのテストは,ビデオで提示された詳細,質問紙で提示された詳細,その両方で提示された詳細,もしくはどこにも提示されなかった詳細について,その記憶の情報源を選択するよう求めるものであった.結果は,自由再生が情報源誤帰属の発生を減少させること,ビデオの要旨に関わるような詳細においては,情動条件の方が中性条件よりも情報源誤帰属の減少が顕著なことを示した.これらの結果は,特に目撃した出来事の印象的な側面に関わる詳細において,出来事直後の自由再生は目撃記憶を頑健にすることを示唆している.

 

学会誌・レポート

  • Facebook
  • Hatena
  • twitter
  • Google+

表示されない場合には、上記リンクをクリックいただくか、プライベートブラウジングを解除してご覧ください。

学会誌・レポート

PAGETOP
Copyright © 日本認知心理学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.