『認知心理学研究』第12巻 第2号

『認知心理学研究』第12巻 第2号(平成27年2月)

目次

  • マジック状況における人間の顔や視線方向への偏重注視(正田真利恵・黒田直史・横澤一彦)

  • 断片的な場面情報の時間的保持特性1), 2)(小澤 良・大杉尚之・牧野義隆)

  • 幼児における描画構成の発達:非標準型の構成と認知的要因との因果性(進藤将敏)

  • 高校生用集団式日英語リーディングスパンテストの開発および英語における習熟度と作動記憶の関係の検討1), 2), 3)(柴崎秀子・時本真吾・小野雄一・井上次夫)

  • 順序の再構成課題における学習直後と遅延後の語長効果1)(都賀美有紀・星野祐司)

  • 第12回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ(行場次朗)

  • 会報
    日本認知心理学会2014年度第2回理事会報告
    第13回大会のお知らせ
    公開シンポジウムの報告
    社会連携シンポジウムの報告
    受領図書
    お知らせ
    日本認知心理学会 会則
    日本認知心理学会選挙細則
    「認知心理研究」諸規定

 

 

マジック状況における人間の顔や視線方向への偏重注視

正田真利恵1)(東京大学大学院人文社会系研究科)
黒田直史(東京大学大学院教育学研究科)
横澤一彦(東京大学大学院人文社会系研究科)

顔や視線は情報選択を司る顕在的注意,すなわち注視に影響する.本研究ではマジック動画観察時の眼球運動を計測することで,ヒトの顔や視線方向が,注視に強く影響することを検証した.動画開始時にはマジシャンの顔が注視されやすかった.またマジシャンが視線を向けた物体が,その後,持続的に注視されたことから,他者の視線方向が観察者の注視行動に影響した.さらに注視すべき対象を知っている2回目観察時においても,マジシャンが視線を向けた物体が長く注視された.そしてマジシャンの顔が遮蔽され,視線方向を視認できない場合にも本傾向は生じたことから,他者の視線は,観察者の注視行動に対して,頑健に影響したと考えられる.ただし他者の視線方向に対する注視の偏りは,動画の進展に伴い減衰した.以上より,他者の意図を正しく推測できて初めて内容が理解できるマジック動画を観察しているときには,事前観察に基づき注視行動を制御可能であっても,他者の存在から視線を逸らしにくいことが明らかになった.
キーワード:顕在的注意,注視,マジック,顔,視線方向

 

断片的な場面情報の時間的保持特性1), 2)

小澤 良・大杉尚之・牧野義隆(中京大学)

短時間のうちに連続して取得された部分的な視覚情報は,取得直後には正確に想起可能であるが,その多くが数s後には想起不可能になる.このことは,時間の関数に従って場面に関する記憶表象が急速に失われることを示唆する.しかし,これまでの研究では短時間で連続的に視覚情報が獲得される事態を模擬するために,独立した個別の場面または個々のオブジェクトの画像が同じ試行内で連続して提示されていた.そのため個々の刺激が互いに一致した場面より取られた場合,それが衰退に及ぼす影響が不明である.そこで本研究では同一の場面画像を分割した画像を連続的に提示することで,場面の一致性が場面情報の保持に及ぼす影響について検討した.さらに信号検出理論を用いることで,提示された画像か否かを識別する感度と判断基準の観点から評価した.実験の結果,場面の一致性は時間にかかわらず感度を低下させた.また,場面の一致性の有無によって時間の関数に従った判断基準の変化の傾向が異なっていた.このことから場面の一致性は再認系列以前に記憶表象を衰退させること,また想起時の意思決定段階で影響することが示唆された.
キーワード:視覚的短期記憶,場面の一致性,記憶の減衰

 

幼児における描画構成の発達:非標準型の構成と認知的要因との因果性

進藤将敏(東北大学大学院教育学研究科)

本研究は,幼児における描画構成の発達,特に対象の非標準型の構成に関わる認知的要因として,描く大きさと位置を捉えるための空間認知と標準型に対する反応の抑制に着目した.実験1では描画と認知の関連を確認するため,4歳児から6歳児を対象に描画課題,空間認知課題,標準型の抑制課題を実施した.その結果,非標準型を描いた参加児のほうが標準型を描いた参加児よりも空間認知および抑制得点が高いことが確認された.実験2では認知と描画の因果性を調べるため,実験1で標準型を描いた参加児を対象に認知の向上を促す訓練を実施した.その結果,空間認知および抑制の両得点が向上した参加児は非標準型を描くようになることが明らかとなった.以上から,空間認知と抑制の発達が描画構成の発達に寄与することが示唆された.
キーワード:幼児,描画構成,空間認知,標準型に対する反応の抑制

 

高校生用集団式日英語リーディングスパンテストの開発および英語における習熟度と作動記憶の関係の検討1), 2), 3)

柴崎秀子(長岡技術科学大学)
時本真吾(目白大学)
小野雄一(筑波大学)
井上次夫(奈良工業高等専門学校)

本研究では日本人高校生用の日英両語のリーディングスパンテスト(RST)を開発し,集団による短時間での実施が可能であるかどうか試行した.その結果,本研究で開発したRSTの信頼性係数は日本語(α=.864),英語(α=.875)ともに高く,得点分布に正規性が示され,RSTを集団で行うことが可能であることが示された.このテストを用いて,高校2年生を対象に日英語RST得点の相関を分析したところ,英語習熟度の高い群の相関係数は.677,低い群は.531であった.英語専攻の大学生を対象にした先行研究では日英語RST得点の相関係数は.84と報告されている.これらの結果は,第二言語の習熟が進んだ学習者は未熟な学習者よりも日英語RSTの相関係数が高いことを示し,その理由として,第二言語に熟達した読み手は第二言語読解を母語読解に近い形で行うことができるからではないかと推測される.
キーワード:作動記憶,第二言語,読解,リーディングスパンテスト,習熟度

 

順序の再構成課題における学習直後と遅延後の語長効果1)

都賀美有紀・星野祐司(立命館大学文学部)

本研究は6単語の学習リストを提示した直後と14秒の遅延後の順序の再構成課題における語長効果を調べた.その結果,短単語が長単語よりも高い語長効果が学習直後には示されたが,遅延後には示されなかった.これらの結果から,順序の記憶における音韻表象は遅延後には減衰すると示唆される.短期記憶と長期記憶の機能的区別の観点からこれらの結果について議論した.
キーワード:語長効果,順序の再構成課題,短期記憶

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