第13回日本認知心理学会優秀発表賞

第13回日本認知心理学会優秀発表賞の選考結果のお知らせ

 日本認知心理学会優秀発表賞規程に基づき,選考委員会において審議を重ねた結果,推薦発表総数62件の中から,以下の4件の発表に,規程に定められた評価部門の優秀発表賞を授与することに決定いたしました.受賞者には第14回大会の総会にて,優秀発表賞を授与いたします.会員の皆様におかれましては,今後とも日本認知心理学会におきまして数多くの優れた発表をなされることをお願いいたします.

2016年1月22日
日本認知心理学会優秀発表賞選考委員会委員長
箱田 裕司

新規性評価部門
受賞者(所属):
今回は該当者なし.

 

技術性評価部門
受賞者(所属):
受賞者(所属): 福井隆雄(リヨン神経科学研究センター・国立障害者リハビリテーションセンター研究所)レヴォル・パトリス*(アンリガブリエル病院,リヨン市民病院「Mouvement et Handicap」部門)サルム・ロメオ*(リヨン神経科学研究センター)ピゼラ・ロール*(リヨン神経科学研究センター)ロセッティ・イヴ*(リヨン神経科学研究センター・アンリガブリエル病院,リヨン市民病院「Mouvement et Handicap」部門)
発 表 題 目 :
「頭頂葉損傷患者における把持とそのパントマイムの運動学的特性」
発 表 要 旨 :
脳内の視覚情報処理経路について,背側経路と腹側経路に区分され(e.g., Goodale & Milner, 1992; Jeannerod & Rossetti, 1993),さらに,背側経路は背-背側経路,腹-背側経路に区分される(e.g., Pisella et al., 2006; Rizzolatti & Matelli, 2003).行為生成における各経路の役割を検討するために,頭頂葉損傷患者を対象に,視線条件(中心視・周辺視),物体の親近性を操作して,到達把持運動とそのパントマイム動作を計測した.背-背側経路を損傷された患者では,周辺視による到達把持運動の障害とパントマイムによるつかみ幅の改善が認められた.腹-背側経路も損傷された患者では,親近性のない物体へ周辺視でパントマイム動作を行った際,つかみ幅の調節が著しく損なわれた.これらの結果は,1) 行為生成における背-背側経路と腹-背側経路の異なる機能と2) 物体の親近性による調節を行う腹側経路の関与を示唆する.
選 考 理 由 :
本研究は,脳損傷患者の到達把持運動およびそのパントマイム動作から背側経路および腹側経路の機能について検討した.実験では背−背側経路および腹−背側経路の損傷患者データを比較し,背-背側経路では外部環境に対するオンライン制御,腹-背側経路では内部表象に基づいた行為生成を行っていることを示した.巧みな実験条件の設定,複雑なデータを明快に示す技法等,技術性評価部門の優秀賞に十分に値するものと判断する.

 

社会的貢献度評価部門
受賞者(所属):
中島亮一(理化学研究所 理研BSI-トヨタ連携センター)岩井律子*(理化学研究所 理研BSI-トヨタ連携センター)上田彩子(理化学研究所 理研BSI-トヨタ連携センター)井関龍太(理化学研究所 理研BSI-トヨタ連携センター)熊田孝恒(理化学研究所 理研BSI-トヨタ連携センター・京都大学)
発 表 題 目 :
「道路形状情報に基づく自己方向・自己位置知覚」
発 表 要 旨 :
人が空間内の対象を知覚する際,同時に自分自身についての空間情報も知覚している.本研究では,道路上に存在する自分自身についての空間知覚(自己方向,自己位置の知覚)に対して,「道路が正立して見えること」「遠くの情報を中心視で見ること」という,典型的な道路の見えの要因が影響を与えるかを検討した.実験では,2枚の道路画像を観察して,どちらが道路に対して正面を向いたものか(自己方向判断),どちらが車線の中央から見たものか(自己位置判断)を答えさせた.実験1では正立画像と倒立画像の観察条件の比較,実験2では正立画像と上下入替画像の観察条件の比較を行った.その結果,自己方向判断は両画像操作によって成績が低下したが,自己位置判断は条件間の成績に違いはなかった.よって,自己方向知覚には上述の2つの要因が重要である一方で,自己位置知覚はそれらの要因に対して頑健であり,これらは別々の認知処理だと示された.
選 考 理 由 :
認知心理学研究が社会に貢献するうえで,現実場面の特徴を捉えることと,心理学研究としての方法論的な厳密性を両立させることが常に問題となる.その点で,本研究は,両者のバランスをうまくとらえた価値の高い研究である.現実の運転行動では,自己位置と自己方向の知覚は常に複雑な相互作用があり,その関係の理解は困難である.この問題に対して,本研究では,運転場面における視覚情報の本質的部分(道路形状)のみを残して単純化した刺激を用い,自己方向知覚と自己位置知覚の関係を実験的に検討可能なパラダイムを開発して,両者が質的に異なることを示唆する証拠を得た.この結果は,運転行動支援という応用研究としても,視覚認知の基礎研究としても重要な貢献であり,高く評価できる.

 

発表力評価部門
受賞者(所属):
光藤優花(関西学院大学大学院文学研究科)小川洋和(関西学院大学文学部)
発 表 題 目 :
「静止画を用いた顔と声のマッチングにおける性格特性の印象の役割」
発 表 要 旨 :
ヒトは顔静止画とその人物の音声をチャンスレベルよりも正しくマッチングできるが,正答率は刺激モデルごとにばらつくことが示されている(Mavica & Barenholtz, 2013).このばらつきは,顔と声のマッチングに何らかの手がかりが利用されており,それが有効に機能するかどうかによって生じていると考えられる.本研究ではこの手がかりとして,顔と声から得られる性格特性の印象の類似度に着目し,モデルの顔と声から受ける印象の評定値とマッチング課題成績との関連を検討した.その結果,各モデルの顔と声から受ける性格特性の評定値の類似度と正答率の間に正の相関が認められた.これは,マッチングの手がかりとして性格特性の印象が重要であることを示唆している.また,髪型や輪郭など顔の周辺情報が利用可能か否かにより,マッチング課題の正答率との相関が認められる性格特性が異なった.これは,顔の周辺情報の有無によって手がかりとして利用される性格特性が変化することを示唆している.
選 考 理 由 :
顔の静止画像から声を予測できるのか, という問題は先行研究において多くの検討がなされてきたが, 知見が一貫していないために, 声の予測に影響を与える心理的要因について不明確な点が多かった. 本研究では, 顔と声から得られる性格特性の印象の類似度が声の予測に対して影響を与えているのではないかという仮説を検証した. 仮説, それにともなう実験手法は非常にクリアーである. 得られた結果は仮説を支持するものとなっており, 新規性が高い知見が得られていると考えられる. 当日の発表も, 様々な専門分野のオーディエンスがいることを意識して発表していることが感じられ, 丁寧かつわかりやすいものであった. 以上のことから本発表は発表力評価部門での受賞にふさわしいものであると判断した.

 

国際性評価部門
受賞者(所属):
今回は該当者なし.

 

総合性評価部門
受賞者(所属):
上田祥行(京都大学こころの未来研究センター)
発 表 題 目 :
「アンサンブル処理によって生じる単純接触効果」
発 表 要 旨 :
好みは様々な要因に影響されており,中でも繰り返し見たものに対して好みが上昇する現象は単純接触効果として知られている.我々は外界を認識する際に,いくつかの物体を集中的に精査すると同時に,複数の物体の情報を要約したアンサンブル情報も取得している.本研究では,知覚したアンサンブル情報が,記憶され,好みの形成に影響を与えるかどうかを,単純な図形を用いて検討した.最初のセッションでは,参加者に12個の円が呈示され,その平均を計算するように教示された.続くセッションでは,平均の大きさの円と新奇な大きさの円が呈示され,どちらの円がより好ましいかを判断するように教示された.実験の結果,実際には呈示されていなかったにも関わらず,平均の大きさの円がより好ましいと判断された.このことは,要約された情報が記憶され,行動に影響を与えることを示している.また,人々が平均を好む傾向は,蓄えられたアンサンブル情報の効果によって説明できる可能性を示唆する.
選 考 理 由 :
「好み」についての研究は,人の脳内処理の解明という基礎研究の観点だけではなく,日常生活場面やマーケディング等への応用展開の観点からも重要である.本研究は,人の視覚系が持つアンサンブル処理による要約情報の把握と,視覚情報に対する好みの関係を検討したものである.人は複数の物体の大きさの平均情報を把握する事ができるが,その平均情報を繰り返し把握していると,それに対する単純接触効果による好みの上昇が見られたというのが本研究の主な結果である.この結果は,実際に目にしたという経験がなくても(つまり実際の接触がなくても),物体に対する好みを変容させうることを示しており,非常に興味深い.また口頭による発表もきちんと準備され,内容を分かりやすく聴衆に伝えられていた.そのため,総合性評価部門での受賞に値すると評価される.

 

(注:*は2016年2月2日現在での非会員を示す.規程により,非会員の方は受賞の対象となりませんが,本年度内に会員になれば受賞資格が与えられます.)

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